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写真・図版
パキスタン防衛駐在官当時の嶌末真氏=同氏提供

 インドとパキスタンの武力衝突が7日から続いています。4月22日にインド人観光客ら26人が武装勢力に殺害された事件を受け、インドは7日にパキスタン領内の「テロ拠点」の空爆に踏み切り、パキスタンも応戦しています。元陸将補で、2002年から05年までパキスタンで防衛駐在官を務めた嶌末(しますえ)真・日本防衛装備工業会調査部長は「現段階では全面衝突につながる雰囲気はないが、緊張も高まっている。常に情報を把握することが重要」と語ります。

 ――インドとパキスタンは過去、何度も関係が緊張しました。

 パキスタンがインドから分離独立した1947年から、両国はカシミールの領有争いを続けてきました。私も、2001年12月に起きたインド国会議事堂襲撃事件を契機にした激しい武力衝突を身近に経験しました。

 事件は、パキスタンの軍統合情報局(ISI)と結びつきが強い組織の犯行とされました。両国合わせて総兵力の半数以上にあたる100万人の陸上兵力が、カシミールの管理ライン(LoC)と、インド・パキスタン国境沿いに展開してにらみ合いました。

 パキスタンの状況に詳しい米英などは「核戦争の危機」と考え、必要最小限の人員を残して国民を退避させました。私がパキスタンに赴任した02年6月には、邦人退避も実施されていました。

 当時のアーミテージ米国務副長官が、両国に緊張緩和を働きかけました。02年6月ごろ仲介が始まりましたが、両軍部隊の撤収までに4カ月ほどかかりました。

透けて見える「エスカレートさせたくない」という本音

 ――今回の武力衝突をどのようにみますか。

 地対地ミサイルや航空機の空対地ミサイル、ドローン(無人機)などを使った攻撃が行われているようです。インド軍はフランス製戦闘機のラファールやロシア製戦闘機のスホイ、ミグを、パキスタン軍は中国と共同開発したJF17サンダー戦闘機や中国製のJ10C戦闘機をそれぞれ使っています。双方はLoCを越えず、自国領空域からミサイルを発射しているのだと思います。

 陸上兵力が展開した02年当時に比べ、極めて抑制的な対応だと思います。パキスタンのシャリフ首相が「犠牲者が流した血の一滴まで復讐(ふくしゅう)する」と語ったように、お互いに国民に対して報復するポーズを取らないといけませんが、「これ以上、事態をエスカレートさせたくない」という本音が透けて見えます。

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