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着陸後、地上要員に誘導されて駐機する米空軍のF16戦闘機=2024年6月13日午後5時6分、海上自衛隊八戸航空基地、里見稔撮影

 三陸沖の太平洋を望む海上自衛隊八戸航空基地(青森県八戸市)に13日、米軍嘉手納基地(沖縄県)から米空軍F16戦闘機3機が爆音を立て飛来した。着陸すると、海上自衛隊の給油車が横付けし、給油を開始した。同基地に訓練で米軍機が降り立つのは、自衛隊創設70年間で初めてだ。

 滑走路には米戦闘機のほか、海自P3C哨戒機も並び、海自無人偵察機シーガーディアンが離陸。飛来した米軍機はこの後、航空自衛隊の戦闘機とも訓練し、「日米一体」を共演した。

 沖縄から飛来し青森に展開した米軍機に関し、防衛省幹部は「米空軍の『ACE(エース)』の訓練だ」と明かす。「ACE(Agile Combat Employment 迅速な戦闘展開)」とは、中国のミサイル攻撃を念頭に、有事の際に主要な空軍基地から部隊を分散させる米空軍の新構想だ。同様の訓練は、空自松島基地(宮城県東松島市)でも同日行われた。

 自衛隊創設から7月1日で70年を迎える。かつては「力の空白」を作らないことが抑止力になると言われた「存在する自衛隊」は「機能する自衛隊」へ、そして米国と共に「戦える自衛隊」へと変貌を遂げようとしている。連載でお伝えします。

 今回の日米共同訓練は、米軍が隔年に行う大規模統合演習「バリアント・シールド(勇敢な盾)」の一環で、今回は7日から18日までの日程で、米軍の陸海空、海兵隊のほか、宇宙軍やサイバー部隊まで1万人以上が参加。米側の要請を受け、今回は自衛隊も初参加し、統合幕僚監部によれば、陸海空自衛隊の約4千人が訓練に臨んだ。

 訓練区域も訓練内容も多様だ。グアム近海では米軍が退役艦艇を使った撃沈訓練を行ったほか、台湾にも近い、フィリピンの東側沿岸近くでは、米空母「ロナルド・レーガン」と、「ヘリ空母」とも呼ばれる海自護衛艦「いずも」や潜水艦「じんげい」などが艦隊を組み、共同訓練を行った。

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滑走路脇に駐機する米空軍のF16戦闘機(左下)。奥の黄色い車体は海上自衛隊の給油車で、滑走路からは海自が運用している無人偵察機シーガーディアンが離陸していた=2024年6月13日午後5時57分、海自八戸航空基地、里見稔撮影

 日本領土では、9都道県の自衛隊基地で実施。八戸、松島以外では、第2列島線上の硫黄島(東京都小笠原村)で、損傷した滑走路の復旧訓練、第1列島線上の奄美大島などでは地対艦ミサイルを交え、中国艦艇を念頭に置いた戦闘訓練を行い、北海道でも、島嶼(とうしょ)防衛を想定した空挺(くうてい)降下訓練が行われた。

 バリアント・シールドとは別枠だが、同じ期間中の16日には、第1列島線内の南シナ海で、海自護衛艦「きりさめ」が参加し、米、フィリピン、カナダと4カ国の海上協同活動も実施した。

 米政府関係者は「従来のバリアント・シールドは第2列島線付近で行っていたが、今回の特徴は日本を含む第1列島線防衛を念頭に置いたことだ。安全保障環境が悪化するなかで、日本が初参加する意義は大きい」と語る。日米安保に詳しい小谷哲男・明海大教授は「この演習は元々、米軍が太平洋地域で行う統合演習としては実戦を意識したものだ。今回は過去最大規模で、そこに自衛隊も初参加をしたということは、中国との有事を想定した形で『日米一体化』が進む証しだ」と分析する。(里見稔、編集委員・佐藤武嗣)

第1、第2列島線

「第1列島線」とは、中国が台湾有事を想定し、米軍の侵入を防ぐのに重要視する独自に設定した防衛ライン。九州沖から沖縄、台湾、フィリピンを結び南シナ海に至る。中国が外洋に設けた「第2列島線」は、小笠原諸島やグアムなどを結ぶ。第1、第2列島線内では海洋活用をめぐり米国とのせめぎ合いが続いている。

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