この春、北海道に赴任した。夕飯の献立で道産子の妻が「やきとりにしよう」と言う。しかしその晩、テーブルに並んだ串に刺さっているのは鶏ではなく、豚肉だった。
「やきとり」なのに豚――。なぜ、このような習慣が根付いたのか。
まず調べたのが、北海道名物の一つ「室蘭やきとり」だ。北海道室蘭市で考案され、タマネギを使い、甘みのあるタレと洋がらしを付けて食べる。
農林水産省の外食・食文化課によると、鶏ではなく豚肉を使用するようになった背景には、街の歴史がある。
鉄の町として栄えた室蘭。1937年、日中戦争が起きると、食料増産のために、農家が豚を飼うようになったという。2年後には、豚の皮で軍靴を作るため、全国で養豚が奨励された。
室蘭市では豚の肉と皮以外は市内で消費してよいとされ、地元の屋台で豚のモツが多く提供されるようになった。いまも続く食文化の原型だ。
串の内容はモツから豚肉へと変化。豚肉との相性がいいタマネギと、洋がらしの組み合わせが定着したという。
函館市の名物「やきとり弁当」を展開するハセガワストアの担当者も「函館を始めとする道南地域では、一般的に『やきとり』というと豚肉のことを指す」と言う。
1978年の誕生から約50…