Smiley face
この日、練習を再開した日本航空石川の選手たち。グラウンド横には能登半島地震の影響でタンクが飛び出していた=2024年4月15日、石川県輪島市の同校、大坂尚子撮影
  • 写真・図版
  • 写真・図版
  • 写真・図版
  • 写真・図版

After Game Talk

 あのとき、何を思い、試合に臨んでいたのか。時を経て対戦相手同士で語らう「After Game Talk」。第1回は、今春の選抜大会1回戦で対戦した日本航空石川の主将・宝田(ほうだ)一慧(いっけい)外野手、副将・北岡颯之介遊撃手、常総学院(茨城)の主将・若林佑真遊撃手、小林芯汰投手をオンラインでつなぎ、能登半島地震について話してもらった。

全力プレーで正々堂々と

 ――元日にあった能登半島地震の影響で、日本航空石川の選手たちは山梨県の系列校に拠点を移し、1月19日に練習再開しました。教室に段ボールベッドを置いて寝たこともあったんですよね。

 宝田(日) はい。急に山梨に移動して、最初は戸惑いもあったけど、野球ができることに感謝をしようとミーティングで話しました。

 北岡(日) 最初は野球にあんまり集中できる感じではなかったですけど、山梨でいち早く野球できる環境を作ってくださったので、感謝の気持ちが1番強いです。

 ――常総学院の選手は、対戦が決まった際に、やりにくさは感じましたか。

 若林(常) 少しはあったけど、プレー中は気にせず正々堂々とやろうと思っていました。あとは抽選会で、どういう状況かなどを聞きました。

 宝田 地震もあって練習できなかったことはあるんですけど、そこは気にせずお互い頑張りましょうと。若林君の人の良さっていうのが印象に残りました。

 小林(常) ハハハ。(若林は)いい時はいいですけど、悪い時は悪いです(笑)。自分もニュースで(震災の話は)いつも流れてきて、大変だなと感じていました。いざやるとなった時は、ちょっとそういう(やりづらさ)のもありましたけど、しっかりやってやろうと。

 ――常総学院はベンチ入りした鈴木選手のお父さんが消防士で、能登半島地震の災害派遣で現地入り。その様子を試合前に聞いたそうですね。

 若林 対戦相手が決まって、先生たちがそういう場を考えてくれました。映像を見て、思っている以上にすごい震災というのがわかりました。

 小林 その立場になってみないとわからないものがあると思うけど、本当に野球どころじゃないだろうなというのが感想です。それでもしっかり準備できているのはすごいなと思います。

 宝田 (後に)自分たちの試合の映像を見て、アルプスの様子とかで常総学院がそういう気持ちで臨んだことを知りました。自分たちも被災した仲間がいます。そういう人たちの気持ちを少しでも分かってくれる人がたくさんいると実感できるだけでうれしいです。

 小林 (試合をする上で)全力疾走など色々な人に元気を与えられるようなプレーを心がけました。

 ――この選抜大会を経験して、学んだことはありますか。

 北岡 この地震で、チームのミーティングを普段よりも増やして、一層チームワークが高まったかなと思います。

 宝田 取材などで「被災地を背負う気持ちはどうですか?」とよく質問されましたが、山梨の人や被災された方の応援の言葉など、色々声をかけてもらったので、背負うというより、そういう人たちの気持ちに応えたいっていう方が強かったと思います。

 北岡 本当にその通りで、声援が直接自分たちのところにもきて、感じるところが多かったです。それが力になっていました。

 若林 1番注目される試合で、さらに甲子園という夢舞台。そこでいつも通りのプレーをできたことは、自分たちの成長につながったのかなと思っています。

 小林 いろんな人に支えられていることを感じた大会でした。そのことをモチベーションに、しっかりプレーできました。

爪痕残るグラウンドから

 ――日本航空石川の選手たちは4月15日に練習を再開しました。

 宝田 選抜1回戦で負けてからチーム練習はできていませんでした。やっと集まれたので、春の悔しさを夏の舞台で晴らすという意味でも、全員で気持ちを高く持って練習できていると思います。

 北岡 走り込みや、スイングなど自主練習はしていたけど、(みんなでやる)練習が素直に楽しいという気持ちは大きいです。甲子園での負けは夏に甲子園で返すしかないと思うんで、そこに向けてまた頑張りたいです。

 若林 グラウンドはどういう状況ですか。

 宝田 少しひび割れとか、レフトの方がへこんだりはあったけど、練習ができないほどではなかったので、整備をして、練習しました。寮は2階に住んでいるのですが、2階のトイレとかにまだ水が通っていなくて、1階しか使用できないのが大変です。

 北岡 洗濯する時間にもルールがあって、そこは少し不便に感じています。それでも多くの人と関わる機会があるので、いいなと思います。

 ――能登周辺の道路も亀裂が入っていました。電柱も傾いているところも。それでもグラウンドに戻ってこられたことは大きいですか。

 宝田 1月からこのグラウンドで練習も寮生活もできず、寂しい思いや悔しい思いもずっとしていました。(春季県大会前ということで)こういう形でも戻って、いま生活や練習ができているのは本当にうれしく思います。

 ――常総学院の選手は、災害や命などへの考えの変化はありましたか。

 若林 1番強く感じたのは、練習しているのが当たり前じゃないこと。常総の選手全員が感じたと思います。その気持ちをもって、また夏に向けてやっていきたいです。

 小林 自分たちが普通に生活できているのが当たり前じゃないことにしっかり気づけました。野球も同じです。全てのことに感謝して、しっかり生活し、夏にまた良い結果出せるように頑張っていきたいです。

 ――選抜を戦って、夏に向けて、相手に宣言したいことはありますか。

 宝田 今回、自分たちは震災ということもあって注目されたけど、もう一度甲子園に行って、また戦いたい。さっき小林くんのクセも言ったので、次は真剣勝負で、自分たちが勝てるよう頑張りたいです。

 若林 今度は初戦じゃなくて、勝ち上がってからまた戦いたいです。(構成・大坂尚子)

共有