練習が始まれば部室の掃除をしたり、選手たちの飲み物を用意したり。グラウンドにはほぼ足を踏み入れない。
その代わり、練習が終わると、真っ先にグラウンドに入る。選手が使ったバットやボールを素早く片付けるため――。
2022年春、埼玉県立朝霞高野球部のグラウンド。同校に赴任したばかりの石塚和成(かずまさ)部長(35)は、そんなマネジャーたちの動きを見て、ふと思った。
「片付けのときだけ活躍するのって寂しすぎる。マネジャーはお世話係ではなく一人の部員なのに……」
選手の手伝いばかり。楽しそうには見えなかった。指導者として、マネジャーが輝ける機会をつくるべきだと思った。「選手にポジションがあるように、マネジャーにもポジションを」。そんなチーム方針へと変わるきっかけだった。
1年生のマネジャーの小名彩水さんは、選手に走り方を教えている。中学時代に陸上部の短距離選手として活躍した経験を買われてのことだ。
練習中、選手の走り方を見ていると、「もっとこうすれば速く走れるのに」と思うことがあった。でも、マネジャーが選手に指導をするなんて恐れ多い。そもそも、そんな発想がなかった。
ある日の練習中、石塚部長の隣で選手の走塁をみていると、こう言われた。
「あいつの走り方どう思う?」「小名は走ることの専門家。遠慮せず、チームのためにアドバイスしてよ」
足をしっかり上げることや…