7月の参院選では、SNSの影響力の大きさがあらためて浮き彫りになった。新たなツールを駆使した者が選挙結果をも左右しかねない状況を迎え、候補者や政党も「ネット地盤」をますます重視するようになっている。一方で、フェイクニュースやデマも多く飛び交い、対策を求める声も高まっている。特に選挙時の偽情報・誤情報の氾濫(はんらん)に、社会としてどう向き合えばよいのか。メディアをめぐる法的問題を研究してきた成原慧・九州大大学院准教授に聞いた。
民主主義の基盤を揺るがしかねない
SNSは単に政治的メッセージを拡散する情報伝達手段ではなく、それを駆使した者が、有権者の意思だけでなく選挙や民主主義をハックする(乗っ取る)可能性がある――。昨年の東京都知事選と兵庫県知事選、そして今回の参院選が示したのは、その事実でしょう。
デジタル技術によって国民が政治に参加しやすくなること自体は望ましいことです。ただ、特に今回、有権者の感情に直接訴えかけるショート動画などによって流通した言説や情報には、候補者や政党への支持や批判、論評だけでなく、デマも少なからず含まれていました。それは選挙の公正を害するだけでなく、民主主義の基盤を揺るがします。人々が正確な情報に基づき候補者や政党を判断しているという信念に疑義が生じれば、選挙で選ばれた議員によって制定された法の正統性そのものが脅かされかねません。
偽情報対策は従来、反論や批判によって淘汰(とうた)されるべきだという「思想の自由市場」論が優勢でした。しかし、今回の参院選でも見られたように、反論がかえってフェイクを拡散し、そのスピードと伝播(でんぱ)力が真実を上回る時代に、この理論は再考を迫られています。
公選法の全体的見直しを
とはいえ、ネット規制が唯一…