Smiley face

 「遺体の取り扱いに関する規制のあり方、これを政府として検討したい」

 2023年11月の参院予算委員会。

 岸田文雄首相は、山本香苗氏(公明)の質問に対し、こう答えた。

国会で答弁する岸田文雄首相=2023年11月28日

 現在、遺体の取り扱いについては、遺体に特化した公的なルールや決まりはほぼ存在しない。政府として新たにルール作りを検討する考えを示した岸田氏は、「ご遺体については礼意を失うことなく適切に取り扱われる、これが重要です」とも語った。

  • 「遺体を安置できない」葬儀業者の3割超で発生 背景に「火葬待ち」

前例なき「多死社会」

 2023年の国内の死者数は157万人を超え、最多を更新した。前例のない「多死社会」は、今後も加速していく。最新の推計では、死者数は2040年に166万5千人でピークに達し、その後もしばらくは「高止まり」が続く。

 「でも、遺体の保全や管理について、公的な決まりは何もない状態なのです」

 「全日本葬祭業協同組合連合会」(全葬連)の松本勇輝・専務理事は指摘する。

 死亡から火葬・埋葬までの遺体の取り扱いは、一部の感染症のような例外をのぞいて「死亡後24時間は火葬や埋葬をしてはならない」という趣旨が墓地埋葬法で定められているほかは、衛生面や管理上のルールは作られていない。

 また、葬儀業者を営むにも、行政への届け出や許認可などの必要もない。

 厚生労働省の補助を受け、全日本墓園協会(東京都)の主管研究員・横田睦さんらが実施した調査によると、全国の葬儀業や遺体安置業など720事業所のうち、管理面や衛生面など遺体の取り扱いに関する基準や手順を設けている事業所は317(約44%)にとどまった。また、自らの施設で遺体を安置することが「ある」とした事業所のうち、安置する施設について室内温度の基準が「ある」のは約43%、取り違え防止のために棺(ひつぎ)などに「故人名を貼り付け」ているのも約47%で、ともに半数に満たなかった。

 棺内のドライアイスから発生した二酸化炭素による中毒死が疑われる事例も起きているが、二酸化炭素濃度について「考えたことがない」とする事業所が約38%。新型コロナウイルスに感染して亡くなった人の火葬や葬儀について、政府が2020年にまとめたガイドライン(2023年改訂)を、「活用していない」が約8%、「知らなかった」も約3%あった。

遺体を取り違えて火葬

 実際、葬祭業者による遺体の取り扱いをめぐり、近年、各地で問題も起きている。

 「ルールが定まっていないこ…

共有