医療DXその先に㊤

 少子高齢化、人材不足、創薬の遅れ――。医療をめぐる様々な課題の解決策として「医療DX」の活用が始まっている。その先にはどのような将来像が描かれているのか。(吉備彩日、後藤一也)

 1月1日に起きた能登半島地震。今回の災害では、医療DXの一つ「災害時モード」が初めて長期的に運用された。避難生活を送る高齢者らが、ふだん使っている薬の名前がすぐにわからない例もあった。災害時モードを使うことで、こうした患者の過去の診療や薬の情報などを避難先の医療機関や薬局は参照することができ、適切な医療につながった。

 石川県七尾市でクリニックを営む日本医師会の佐原博之常任理事は1月4日から診察を始めた。電気は使え、電子カルテなどのシステムも稼働していた。だが、能登北部から避難した患者の中には、保険証やお薬手帳を持っていない人もいた。

 そこで、診療や処方薬の情報を閲覧できる「オンライン資格確認システム」の災害時モードを活用。患者の名前や生年月日などの基本情報を入力することで、過去の薬の情報を確認できた。佐原さんは「今回のような多くの人が避難せざるを得ないような災害では、すごく役に立った」と話す。

 金沢市の城北診療所では1月、避難中の患者約160人を診察した。患者の1~2割ほどは保険証を持っていなかった。「保険証がないけどどうしよう」と不安がる人もいたが、災害時モードで情報を確認できることを伝えると、安心してもらえたという。

 厚生労働省によると、石川県や近隣県の医療機関で情報が閲覧された回数は、のべ約3万2600件(5月2日で運用終了)。主にかかりつけではない医療機関で診察を受けた患者への薬の処方時に活用されたという。

 石川県薬剤師会の中森慶滋会長は「多くの人は『高血圧の薬』や『白い錠剤』と覚えている。災害時モードで、服薬履歴を正確に得ることができ、現場はとても助かった」と話す。

光回線断絶で利用できず

 過去にどんな医療行為を受け、どんな薬を処方されたのか。こうした患者の基本的な医療情報はオンライン資格確認システムに登録される。9割以上の医療機関が光回線などでこのシステムに接続している。

 患者が、健康保険証とマイナ…

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