「〇〇ハラスメント」という言葉が次々に生み出され、モラルの問われる時代になりました。これまで泣き寝入りしていた人たちが、声を上げることができるようになったり、そもそも社会全体が気を付けるようになったりしたことは、いいことです。
一方で、企業では「ハラスメントにならないように指導するって難しい」「なんにも言えなくなった」と悩む管理職もみかけます。
部下の「指導」と「ハラスメント」はどのように違うのでしょう? 上司はどこまですべきなのでしょう。
- 連載「上手に悩むとラクになる」
私は企業研修の仕事もしていますが、そこで同様の質問がなされます。合理的配慮の研修では特に質疑応答が過熱します。
その際、気になるのが、「会社は治療にあたる医療機関なのか?」という疑問です。
会社は治療を行う場ではなく、利益を追求する場であり、自己実現の場であり、生きるための生活の場でもあります。
合理的配慮という文脈においても、あくまで「機会の均等な提供」を目指すのであって、なんらかの障害や疾患を「治療」する場ではないのです。
ミスをくり返す部下、仕事を任せられない?
ここで架空の事例を挙げましょう。
注意してもミスを繰り返してしまう新人社員ユウタさんです。
上司は、なんとかユウタさんのミスを減らすべく、指導をしたいと思っています。上司としては一切責めるつもりはなく、ミスの原因を解明して、一緒に対策をとりたいと思い、ユウタさんを別室に呼んで丁寧に話を聞きました。
上司「このミスはどうして起こったの」
ユウタ「すみません」
ユウタさんは早々に泣き出してしまったのです。その後は黙っていて話し合いになりませんでした。
どうしたものかと頭を抱えていたところ、別の社員がユウタさんをフォローしてくれました。なんでも「こわかった」そうです。
上司としては最大の配慮をしたつもりだったので、非常にショックでした。
上司「こんなに優しく言っているのに、いったいどうしたらいいんだ。甘やかしすぎたのだろうか。もうなんにも言えない。何を言ってもハラスメントだなんて言われそう」
上司は、ユウタさんに仕事を振るのをためらってしまうようになりました。
またミスをされそうというより、被害的にとらえられてしまいそうだからです。
上司はユウタさんに振るべき仕事も自分で肩代わりしてこなすようになりました。その方がよっぽど楽なのです。
それでもユウタさんとの接点はあります。気まずい雰囲気をなんとかかき消そうと、仕事の指示を出すのですが、ユウタさんは目を泳がせて、ちゃんと聞けているかも謎です。
上司のNG対応と、とるべき行動は
困った上司は職場の産業カウンセラーに相談しました。
すると、ユウタさんを指導するにあたり、
①耳からの情報が入りにくいこと。特に精神的に参っているときは圧倒されて聞けなくなっていること
②ミスをするプロセスを振り返る方法がわからず、ミスの話題に触れるだけで責められていると思い込んでいること
を考慮する必要があるとのことでした。
また、上司が最近よかれと思ってしている以下の行動についても尋ねられました。これらは腫れ物に触るように接している上司によく見られる行動なのだそうです。
× 代わりにユウタさんの仕事をする
× 目が泳いでいるユウタさんに対して諦めて指示をしなくなる
× ユウタさんの傷つきやすさを恐れるあまりに、優しい表現を心がけた結果が、皮肉にもあいまいな指示を生み出している
その代わりに、以下のような接し方を提案されました。
◯ 指示を出す方法を再検討し、ユウタさんが指示を受けられる機会を保障する(おそらくメモやメールのような視覚情報かつ、あとから落ち着いたときに見返せる手段)
◯ 本人自身にも面談を行い、仕事にミスはつきものであること、ミスを防ぐ方法を話し合うことは責められて罰を受けていることではないこと、ミスを防ぐ対策を講じる責任は自分にあることを伝える
◯ ミスの起こるプロセスを「実行機能モデル」で視覚化する。「スタートする」「計画を立てる」「進捗(しんちょく)をモニタリングする」「脱線を防止する」という4ステップのどこでミスが起こるのか検討しやすくする
いかがでしょうか?
よいバランスで指導できるといいですね。
〈臨床心理士・中島美鈴〉
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。
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