(20日、第107回全国高校野球選手権奈良大会2回戦 天理10―0高円芸術・国際・二階堂・山辺=5回コールド)
「どうにか回してほしい。ここからでも勝ちたい」
9点リードを許した五回表2死走者なし。三回裏から途中出場した二階堂の赤阪武紗志(むさし)(3年)にとっては次が初打席だ。しかし、思いは届かず、前の打者が三振で攻守交代となった。
「次を0点で抑えたら打席が回ってくる」と、気合を入れて全速力で左翼まで走る。無死一塁で左前安打を放たれると、すぐさま捕球し内野へ送球。一塁走者の三塁への進塁を許さない。チームは2死二、三塁まで粘ったが、その後のヒットでコールド負け。赤阪が打席に入ることはなかった。
昨秋、部員は赤阪1人に。部活に入らず遊ぶ同級生もいる中で「何しているんだろう」とモチベーションが低下した。
ある日、誰もいない学校のグラウンドに向かって叫んだ。「今からバッティング練習します!」。不思議と気合が入った。「野球部頑張っているな」と話しかけられることも増えた。自分の武器である「声」で野球部の存在を知ってもらえる。以来、1人での練習は声出しから始まるのが日課となった。
ただ、練習メニューはどうしても単調になった。だからこそ、複数人で取り組める連合チームでの練習はありがたかった。なにより「みんなとする野球が楽しかった」
最後の試合を終え、打席に立てなかった思いを聞いた。「もともと守備は苦手だったけど、自分の100%を出してチームで進塁を止められた。だから、悔しさはない」。仲間への感謝とともに、晴れやかな表情でそう語った。