ノックを受ける加美農の増子晴琉主将(手前)=2025年6月4日午後6時0分、宮城県色麻町、岸めぐみ撮影

 少子化のあおりで、高校野球に連合チームが増える中、加美農(宮城県色麻町)は部員数がV字回復し、連合チームから単独出場に戻った珍しい高校だ。この夏、単独チームとして16年ぶりの公式戦勝利を目指し、練習に汗を流している。

 「お願いしまーす」「今のは取れるぞ!」。6月4日夕、グラウンドのあちこちから元気な声が響く。部員は総勢24人。選手たちはノックを受けたり、肩をならしたり、筋トレをこなしたり。活気あふれる練習風景が広がっていた。

 だが、数年前まで加美農は深刻な部員不足が続き、連合チームによる出場が続いていた。

 佐伯友也監督が赴任した2017年、部員はわずか2人だった。19年の監督就任後、野球経験は問わず積極的に勧誘し、20年に11人の部員で4年ぶりの単独出場を果たした。

 「ずっと連合チームのままでは、いつか部員が入らなくなるという危機感があった」と佐伯監督。その後は、次第に初心者を含めて部員が入るようになった。現在の24人のうち、6人が高校から野球を始めた初心者だ。

 今年の新入部員は8人で、全員が野球経験者。それでも佐伯監督は「今後も初心者を受け入れていきたい」と話す。「これまで入部してくれた初心者の彼らが、今の加美農を作ったのだから」

 今では「加美農で野球がしたい」と町外から入学する生徒もいる。エースの星迅乃丞(じんのすけ)投手(3年)もその一人だ。

 中学時代は先生とそりが合わず、学校を休みがちだった。地域のクラブチームで野球をしていたが、高校では「心機一転頑張りたい」と入学先を探していたところ、中学校の先生から加美農を紹介された。

 見学に行ってみると、佐伯監督や先輩の雰囲気の良さに魅力を感じた。「ここで野球がしたい」と決心したという。

 入学後も嫌なことがあると、感情的になり、周りと衝突してしまうことも多かった。練習試合では、他の選手がエラーするとイライラし、主将の増子晴琉選手(3年)とはしょっちゅう言い合いになったという。

 先輩たちが引退した後、このままではいけないと感じ、話し合いを重ね、互いにわかり合えるようになった。

 今では「あの頃と比べると、人間的にめっちゃ成長しました」と笑う。周りとぶつかる後輩を見ると「俺もそういう時あったよ」と積極的に声をかけ、話も聞く。

 加美農は20年の単独出場以降、公式戦では未勝利だ。ただ、単独チームになった直後は練習試合で、20、30点と大量失点することがよくあったが、最近は違う。

 昨秋の県大会地区予選では築館に7―8と接戦で敗れ、今春の県大会地区予選では古川と延長十回タイブレークの末、2―3で惜敗。勝利まであと一歩の戦いが続いている。

 9日に開幕する宮城大会では、初の勝ち星に向け、期待が高まる。初戦は13日、相手は気仙沼に決まった。星選手は「誰よりも頑張って、周りのみんなを引っ張って、歴史を変えたい」と意気込む。

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