ティースタンドを溶接する丹野裕太さん=2025年6月24日午後3時48分、仙台市青葉区の宮城県工業高校、岸めぐみ撮影

二刀流でいこう! 【野球×用具自作】 宮城工

 「ないものは作る」。そんな精神で野球道具を手作りしながら、練習に励むのが宮城工だ。

 例えば、打撃練習の際、打者の前の位置に球を乗せる台「ティースタンド」。冨樫誠悦監督は昨年11月、最新式の「サクゴエ」という商品を業者に見せてもらった。先端がウレタン素材でできており、打つ度に倒れては元に戻るという仕様だ。

 「これは作れる」。そう思った冨樫監督は、選手に呼びかけた。責任者となったのは、電気科の伊達海斗さん(3年)。土台となる板の切断、ネジ締め、土台と棒の溶接など、作業工程ごとにそれぞれ複数の部員に割り振った。

 溶接を担当したのは、機械科の丹野裕太さん(3年)と遠藤惟通さん(2年)。丹野さんに、溶接を実際に見せてもらった。後輩の作業着を借り、保護メガネを付けると、一気に真剣な表情に。金属に放電し、高熱で溶かしてつなぎ合わせる「アーク溶接」という技術を使い、火花を散らしながらティーの土台の金属板と筒をくっつけた。

 作業は冬場の練習終わりに進めた。「より丈夫にするにはどうしたらよいか」と土台に使うネジの大きさなどを一つひとつ話し合った。

 伊達さんは「専門知識を生かし、選手同士コミュニケーションをしっかりとりながら作れたから、チームにとっても良い機会だった」と話す。

 できあがったティースタンド3台は、先端部分が倒れても、すぐに元の形に戻る。丹野さんは「実際に使ってみて、ちゃんとものになってよかった」。

 これまでの卒業生の中には、光センサーのタイム計測器やストライクゾーンの鉄製の枠組みを自作した人もいたという。冨樫監督は「技術を学べば、練習を充実させるものを自分たちで作れちゃう。学びの実践です」。

 ちなみに、宮城工グラウンドの打撃ケージやブルペンの屋根は、冨樫監督や千葉敏志副部長が自作したという。

 部員は国家資格の取得にも挑んでいる。丹野さんは部品を正確に計測する技能検定(機械検査)3級、主将の伊藤秀隼さん(3年)と伊達さんはビルや工場などで最大で500キロワット未満の電気設備工事ができる「第1種電気工事士」の資格を持つ。

 資格試験が近くなると、朝7時に学校に行き、配線図を見て回路を組む実技試験の対策を重ね、部活が終わると、午後9時ごろまで電気科の冨樫監督、千葉副部長が指導に当たった。伊達さんは「人生で一番勉強しました」と笑う。

 伊藤さんは現在、授業の課題でミニトマトに様々な種類のLEDライトを当てて成長具合を比較する研究、丹野さんは「3DCAD」というソフトを使って、車の3Dモデルの作成に取り組んでいる。

 伊藤さんは「自分たちで試行錯誤しながら何か作るという経験ができる」。伊達さんは「ほかの高校にはできないことをやっている誇りがある」と胸を張る。

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