Smiley face
写真・図版
判決後、原告の岩永千代子さん(左)、山内武さん(右)とともに「一部勝訴」などと書かれた紙を掲げる原告団=2024年9月9日午後2時22分、長崎市、小宮路勝撮影
  • 写真・図版

 長崎で原爆に遭いながら、国が引いた被爆地域から漏れたために被爆者と認められずにいる「被爆体験者」44人が、長崎市や長崎県に被爆者健康手帳の交付を求めた訴訟の判決が9日、長崎地裁であった。松永晋介裁判長は、原告のうち一部の地域で原爆に遭った15人を被爆者と認め、手帳の交付を命じた。

  • 長崎原爆から79年、一部の原告を「被爆者」と認める判決に戸惑い
  • 【そもそも解説】被爆体験者とは? 置き去りにされた長崎の被爆者

 国は原爆に遭った人を救済するため、長崎市の爆心地から南北に約12キロ、東西に約7キロという縦長の楕円(だえん)形の区域で被爆した人らに手帳を交付している。この区域の外側にいたとされる被爆体験者は、3月末時点で約6300人いる。

 訴状などによると、原告44人(4人が死亡)は、長崎市や諫早市などの78~91歳の男女。原爆投下時、被爆者と同じ12キロ圏内にいたのに被爆者と認められないのは「著しい不平等」として、被爆者健康手帳を交付する県と市を相手取り、2018年に提訴した。

 裁判では、原告44人が、「原爆の放射線による健康被害の可能性がある事情の下にあった者」に当たるかが争点となった。

 判決で松永裁判長は、被爆地域外の旧矢上村、旧古賀村、旧戸石村について、市などが1999~2000年に実施した証言調査で降雨の記述があったことや、被爆地域で黒い雨が降ったとされる西山地区の風下にあったことなどを踏まえ、「黒い雨が降った事実が認められる」と判断。同地域周辺では、原爆由来のプルトニウムが検出されていることから、「長崎原爆由来の放射性降下物が降下した相当程度の蓋然(がいぜん)性が認められる」として、これらの地域で原爆に遭った原告を被爆者と認めた。

 原告側は、広島高裁が21年に「原爆の放射能による健康被害を否定できなければ被爆者にあたる」として、援護の対象外で黒い雨に遭った住民ら84人を被爆者と認めた判決を踏まえ、この解釈が長崎にも当てはまると主張。判決は「健康被害の可能性がある事情の下にあった者をいうものと解するのが相当」と指摘した。

 被爆体験者の訴訟をめぐっては、07年に提訴し、最高裁は17年に「爆心地から5キロの範囲を超えた場所にいた人は原爆の放射線による被害は認められない」とした高裁判決を是認。被爆体験者は敗訴した。今回は原告が新たに提訴していた。(小川崇)

共有