(20日、第107回全国高校野球選手権石川大会3回戦 遊学館8―7門前)
一塁側スタンドには、輪島市門前町から多くの住民が応援に駆けつけた。一回表、先頭打者の山本健文選手(3年)が3球目のスライダーをとらえ、左翼フェンスを越える本塁打を放つと、応援席は大きな歓声に包まれた。
「厳しい環境に身を置きたい」と金沢市から門前に進学した山本選手。門前での3年間の寮生活を振り返り、「自分一人でなく、周囲や地域の支えがあってこそということを学んだ」と語る。
介護施設に勤める臼池正弘さん(70)は、前夜に七尾市に宿泊して球場に足を運んだ。約3年前から、仕事帰りや休日にほぼ毎日、門前の練習する球場へ通う。「選手一人ひとりの成長が感じられる。急に上達することもあって、それが楽しみ」と目を細める。
陶器店を営む沢田由紀子さん(75)も応援に駆けつけ、「毎日ユニホームを着て自転車で練習場に向かう子どもたちが、明るくあいさつしてくれるんです」と話す。
昨年の能登半島地震で商品のほとんどが割れてしまったが、片付けや、仮設商店街への移転も選手たちが手伝ってくれた。「私にとって子どもたちは宝石のような存在」と話した。
試合は遊学館の反撃を受け、最大4点差まで引き離された。それでも、山本選手は「逃げずに、諦めずに挑戦し続けることができた」と話す。
六回には自身の二塁打を含む3連打で同点に追いつき、スタンドの応援にも熱が入った。臼池さんは「よく追いついた。強い気持ちがないとできん。褒めてあげたい」と健闘をたたえた。
しかし、九回裏、遊学館の3連打でサヨナラ負け。山本選手は涙を拭きながら「もっと長く門前で野球がしたかった」と声を絞り出した。本塁打を含む3安打2打点と活躍し、「地域の応援が力になった。感謝しかないです」と話した。門前町は「第二の故郷」と胸を張った。