「上方落語ではなく、江戸の落語を関西で聞ける寄席」にこだわる主催者が兵庫県尼崎市にいる。大阪や神戸などでこれまでに開いた落語会は400回以上。同じ落語と言っても趣の異なる江戸落語に触れられる貴重な機会として、落語ファンの心をつかんでいる。
吉田達(とおる)さん(42)は2009年から、「吉田食堂」の屋号で落語会を開催している。
昨年12月上旬、大阪市中央区の劇場「道頓堀ZAZA」で開かれた吉田食堂は、約50人のお客さんの笑いに包まれた。
この日は三遊亭萬橘(まんきつ)さんの一人会。萬橘さんは「東京の落語家を大阪に呼んでくれる大変貴重な方。足しげく東京で落語を見ているので、落語家から信用されています」と話す。
萬橘さんによると、漫才にアクセスしやすく演芸に慣れている大阪は、東京の落語家にとって「ウケない場所」だという。
「昭和の名人である古今亭志ん生も『箱根の関所の向こうは気を付けろ』と言ったほど、昔から大阪ではウケない感覚があったんです。大阪で独演会をしようなんて、吉田さんがいなければ思いませんでした」
吉田さんのこだわりは、演者と客席の距離の近さ。人気の落語家でも最大200人までの会場で落語会を開催する。「演者からお客さんの顔が見渡せる、詰まっている感じが吉田食堂なんです」と吉田さん。
50年来の落語ファンで、吉田食堂に8年ほど通う西宮市の西垣慎一郎さん(69)は「目利きの良さと、大きなホールでやる落語家さんをこの距離で見られるのが魅力です」と話す。
吉田さんは、落語会の企画から会場の手配、宣伝と予約の受け付け、落語家の大阪滞在中のホテルや新幹線の手配、当日の受け付けと舞台照明まで1人でこなす。「落語が好きじゃないと、この仕事は続けられないですよ」
現在も毎月東京に通い、落語会を回る。理屈ではなく、直感で面白いと感じた落語家に声をかける。
◇
「やればいいじゃん」と言ってくれた落語家
かつて、吉田さんも落語家を目指した一人だった。
大学入学の春、サークルの新…