17日午前5時46分。高知市高須2丁目の住宅街にあるパン店「ベイクショップ リンデン」で、店主の松岡広明さん(64)はいつも通りパンを焼いた。
パン窯の温度は200度前後。かたわらでは妻のまるみさん(61)がサンドイッチを慣れた手つきで作った。
30年前の同じ時刻。34歳だった松岡さんは、兵庫県西宮市のパン店「グレーテル」でパンを焼いていて、阪神・淡路大震災に襲われた。
その時の記憶は鮮明だ。どーんと突き上げられた後、小刻みな横揺れが続き、やがて振り幅が大きくなった。店内の水道管が破損し、噴水のように水があふれた。パンを運ぶプラスチックの箱をかぶって頭を守った。
高知市生まれ。高知学芸高校を卒業し、大学進学をめざして浪人中に「パン職人になる」と一念発起。松山市の製パン店で修業し、さらに腕を磨こうと1985年、西宮市の店に転職した。
被災したのは2男1女をもうけ、生活も安定していたころだ。
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