講演する宮本憲一名誉教授=2025年1月12日午後3時53分、神戸市中央区、原晟也撮影

 阪神・淡路大震災の際にアスベスト(石綿)を吸って肺がんを発症したとして、労災を申請していた神戸市の80代の男性が昨年度、労災と認められていたことが、厚生労働省や当時の勤務先などへの取材で分かった。

 男性が当時勤めていた家具製造会社によると、1995年の震災直後から約3年間、男性は営業職として解体作業の続く神戸市内で顧客の被災状況を見て回ったという。

 退職後に肺がんを発症。医療機関を受診した際、アスベストを吸っていたことが確認され、労災を申請したという。飛散したアスベストを吸い込んだとみられ、神戸東労働基準監督署が労災認定した。男性は2024年に80代前半で亡くなったという。

 NPO法人「ひょうご労働安全衛生センター」によると、阪神・淡路大震災によるアスベストが原因の労災をめぐり、中皮腫を発症した人が認定された例はあったが、肺がんの人が認定されたのは初めてとみられるという。

 同NPOは「当時はアスベストが飛散し、解体作業に携わった人以外にも吸っている人が多かったことが推認される。定期的に健康診断を受けるなどしてほしい」としている。

「避難生活者もハイリスク」シンポで研究者ら

 阪神・淡路大震災で倒壊した建物などから飛散したアスベストによる健康被害や、当時の経験がその後の災害にどう生かされてきたのかを考えるシンポジウムが12日、神戸市中央区であった。

 研究者やNPO法人理事長、アスベスト被害者ら8人が登壇し、約150人が耳を傾けた。

 国内では2006年に製造や使用が原則全面的に禁止されたが、50年後に発症するケースもあり、公害問題などに取り組んできた宮本憲一・大阪市立大名誉教授は「今世紀の終わりまで被害は続く」と指摘した。

 阪神・淡路や東日本大震災のボランティア経験者にアンケートをした南慎二郎・立命館大講師も登壇。調査結果から「ボランティア側の認識や、防じんマスク配布などの対策がまだまだ不十分だ」と警鐘を鳴らした。

 NPO法人「ストップ・ザ・アスベスト」の上田進久理事長は、阪神・淡路大震災当時、街全体にアスベストが長期間飛散しており、「避難生活を送っていた住民もハイリスクだったと自覚して、病院に受診してほしい」と呼びかけた。

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