プロ野球・阪神タイガースの石井大智がドラフト会議で指名される前年の2019年秋だった。
国立の秋田工業高等専門学校から、独立リーグ・四国アイランドリーグ(IL)plusの高知ファイティングドッグスに入団して、2年目のシーズンを終えていた。
石井は投手コーチだった吉田豊彦さん(59)=現・東北楽天ゴールデンイーグルス「泉犬鷲寮」副寮長=に、練習用グラウンドで悩みを打ち明けた。
「移籍しようかどうか迷っています」
吉田さんはそれまで石井が弱音を吐く姿を見たことがなかった。戸惑いながら、理由を問いただした。
すると、石井は思い詰めたような表情でぼそぼそっと口を開いた。
「ここではプロ(NPB)に行けないのかな」
当時の高知は、11年のドラフト会議を最後にNPB球団から誰も指名されていなかった。
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その年の石井は、入団当初140キロ台だった速球が150キロを超えるようになり、18試合で6勝5敗。何より、122奪三振はリーグトップの成績を誇った。
それでも、支配下選手どころか、育成でも声がかからない。
どうすれば「上」に行けるのか――。
2年計画で力をつけ、夢をかなえようとしていた石井の心は折れかけていた。
例えば、同じ四国ILの徳島インディゴソックスは19年時点で、7年続けてNPB球団にドラフト指名される選手を育てていた。
何を信じていいのかが分からなくなったとき、「隣の芝生は青い」と映っても仕方ない。
吉田さんはその夜、石井を食…