最近よく聞く「ネットミーム」。突如として同じような画像や動画が出回ったり、初見では何のことかよく分からないネタを多くの人が面白がっていたり。ネットミームに詳しい芸人の大久保八億さんは「コミュニケーションの大きな助けとなる一方で、人間の嫌な面も表れやすい」と話す。ネットの面白ネタが映し出す社会の変化を聞いた。
《ミーム(文化的遺伝子)》イギリスの生物学者リチャード・ドーキンスが1976年に提唱した概念。英語のgene(遺伝子)と、ギリシャ語で「模倣」を意味するmimemeを合成した造語で、生物が遺伝によって子孫に情報を伝えるように、仲間内での模倣行動によって様々な文化情報が伝わることを指す。インターネットを通じて模倣、改変されながら広まる事象をネットミームと呼ぶ。
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――「猫ミーム」が流行するなど、ネットミームが話題となることが増えました。どういった変化があったのでしょうか?
「インターネットを通じたコミュニケーションの中心が『2ちゃんねる』(現・5ちゃんねる)などのネット掲示板からSNSや動画投稿サイトに移り、ネットミームの内容も変わってきました。掲示板時代はネットスラングやコピペ(定型化した文章)といった文字のミームが多かったのが、今は画像や動画が多くなっています。また、ネットといえばパソコンだった時代は利用者がどちらかといえばオタク的な人に偏りがあり、歌やダンスのミームもアニメソングやボーカロイド関連が大半でした。ネットスラングで『リア充』(リアルが充実)が広まったように、ネットとリアルは分けられていました。それがスマホ時代になるとアニメとは全く関係ない歌やダンスがミームとなり、ネットミームがリアル化しています」
「こうした変化で、地域や言語、オタク的な世界観の共有を問わないミームが増え、拡散スピードはより速くなり国境を越えて広まるようにもなりました。一方でミームの元ネタがあまり理解されないまま拡散する傾向も強まっています。猫ミームでよく使われる猫の動画はペットショップで売れ残りの猫を撮影したものだと言われます。空中に浮いているように見えるダンスとしてTikTokで話題になった『スリックバック』に使われる曲は、人権問題をテーマにして差別用語が連発されるなど過激な面もある米国アニメ『ブーンドックス』が元です。元ネタへの理解の浅さがハレーションを起こす事例も起きるようになっています。このため、良い面でも悪い面でもネットミームが現実社会に影響を及ぼすことが増えているのでしょう」
――国境を越えたミームの摩擦では、最近では「バーベンハイマー」がありました。米国では同日公開だった映画「バービー」と「オッペンハイマー」の観賞を促すものとして好意的に受け止められましたが、被爆国の日本では笑顔のバービーとキノコ雲を組み合わせた画像に批判が起きました。
「逆のパターンでは、日本でも映画『ヒトラー ~最期の12日間~』でヒトラーが激高しながらまくし立てる場面が空耳で日本語のように聞こえるとして、様々なうその字幕をつけた動画が『総統閣下シリーズ』としてミームになりました。日本人はネタとして楽しみましたが、ドイツでは受け入れられない内容だと思います。これは字幕なので言語の壁がありましたが、『バーベンハイマー』のようなインパクトがある画像は国境を越えやすいので、地域によって受け止め方が変わるミームはこれから増えそうです。かわいいポーズやしぐさを意図したものが、世界のある地域では差別的な意味合いの動作というような予期せぬ受け止め方になることも起きるでしょう」
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――ネット上には様々なコンテンツがあふれ、著名人や大企業が手がけたものも多々あります。それなのに一般人の何げない投稿がミーム化するなど、拡散の分かれ目はどこにあるのでしょうか?
「ミームの特徴の一つに、偶発性があります。本人は意図していない天然の面白さ、えも言われぬシュールさやチープさ、これらは狙ったコンテンツでは出せないものです」
「また、ネットコンテンツでの金もうけを嫌うネットスラング『嫌儲(けんもう)』がある日本で特に強い傾向だと思いますが、狙い澄ました気配を感じると気持ちが引いたり批判の対象になったりすることも多いです。近年の例だとツイッター(現・X)で発表された4コマ漫画『100日後に死ぬワニ』が当初は口コミで人気を集めましたが、最終回直後に映画化やグッズ化などの大々的な商業展開が発表されると評価が一変して悪い形でミーム化してしまいました」
「そしてミームには、嘲笑の意味合いを含んだものが多いです。この嘲笑の部分でも、ネットミームに変化が表れています」
――どういうことでしょうか?
「端的に言うと、陰キャ(陰…