障害のある作業員たちと一緒にコチョウラン栽培をするNPO法人「AlonAlon」理事長の那部智史さん=2025年1月17日午後3時25分、千葉県富津市、森下香枝撮影

 千葉県富津市。JR内房線の君津駅から車を走らせると、約2千坪の敷地にビニールハウス5棟が並ぶ一角が見えてくる。

 ハウスの中は南国のように暖かく、白や紫などの大輪の花を咲かせたコチョウラン1万本がズラリと並んでいた。昇進や開業、誕生日などに贈られる高価な祝い花だ。

 トレーナー姿の若い男性が、鏡を見ながらコチョウランの細い枝をゆっくり曲げて調節していた。作業をのぞき込み、目が合うと「こんにちはー」と屈託のない笑顔であいさつをしてくれた。

鏡を見ながらコチョウランの枝を整える男性=2025年1月17日午後3時26分、千葉県富津市、森下香枝撮影

 ここ、「AlonAlon(以下、アロンアロン)オーキッドガーデン」は、福祉施設でもある。一般企業に就職するのが難しい障害者に働いてもらいながら就労を支援する「就労継続支援B型事業所(就B)」に指定されている。

 「アロンアロンとは、インドネシア語でゆっくりゆっくりという意味。ここはハンディキャップのある人たちの職場なので、せかさず、ゆっくり進みましょうというメッセージを込めました」

 運営するNPO法人アロンアロンの代表、那部(なべ)智史さん(55)はこう語る。

 7年前にガーデンを開園した際、那部さんは60工程に及ぶ複雑なコチョウランの栽培を、障害者たちがスムーズにできる仕組み「スマートアグリシステム」を導入した。

 だが、当初は多くの生花店から「障害者の作ったコチョウラン鉢は取り扱えない」と取引を断られた。

 やがてSDGsの理念が広がる中、その品質がじわりじわりと認められるようになった。

 「自閉症特有のこだわりの強さが高品質なコチョウラン鉢をつくるのにプラスになったことも。同じことを繰り返す知的障害者の持続力が生産性を向上させた面もあります」

三井グループの業界大手と取引

 創業127年を迎える三井グループの業界大手「第一園芸」(東京)との取引も今年1月から始まった。

 那部さんはもともと、通信会社の会社員だった。2000年に独立し、東京都渋谷区でITベンチャーを起業。当初、社員3人だった会社は10年間で150人に増え、経営が軌道に乗ったところで会社を売却し、13年にアロンアロンを立ち上げた。

 なぜ「畑違い」の福祉施設運営に乗り出そうと思ったのか。

那部さんにとって人生前半の最大の目標は「お金を稼ぐこと」でした。しかし、起業したITベンチャーを売り、障害者たちとコチョウランの栽培に乗り出します。障害者、顧客、企業に「三方良し」のビジネスモデルとは

 那部さんの息子(27)には…

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