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きたぎんボールパーク。23年のオープン以降、夏の岩手大会の決勝が行われている
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 盛岡市にきたぎんボールパークが開場した2023年4月1日、記念となる第1号本塁打を放ったのは全国注目のスラッガーではない。地元で育ち、甲子園では主にベンチを温めた選手のバットから生まれた。

 「太陽と重なって打球は見えなかった。でも打った瞬間ホームランだと分かった」

 今野憲伸(19)は盛岡市出身。当時は花巻東の3年生で、新球場で初めて行われた早稲田実(東京)との記念試合で第1号を放った。

 特に意識するチームメートがいた。歴代最多とされる通算140本塁打を放った佐々木麟太郎(19)=現・米スタンフォード大。ベンチに戻ると、「先に打ったぞ」と声をかけた。佐々木麟は悔しそうな表情を見せた。

 投手だった小学生のとき、花巻東監督を父にもつ佐々木麟を抑えたことで同校への進学を意識した。

 監督の助言もあり、長距離打者をめざして2年秋から体重を増やした。翌年春までに17キロ増の85キロ。その効果が出たのが早実戦の一発だった。多くの家族や知人が見つめる中で、主役を佐々木麟から奪った。

 「試合前は第1号を打てるなんて全く思っていなかった。麟太郎より先に打ったことがうれしかった」と喜びをかみしめる。

 良い時間は長く続かなかった。両足肉離れの影響もあり、レギュラーは遠のいた。それでも「声担当」としてチームを盛り上げ、8強入りした23年夏の甲子園大会でも背番号9でベンチ入りした。

 関東学院大に進み、自らの意向で少年野球以来の投手に再転向した。「きたぎんでの1本を含めて、野手はもういいと思った」。現在の体重は75キロぐらいだ。

 花巻東―早実戦に先立つ記念式典で行われたのが継承式だ。盛岡市と岩手県の共同整備でできたきたぎんは、岩手県営(盛岡市)と盛岡市営の両野球場を継承するため、両野球場の土を散布する儀式があったのだ。

 市にアイデアを持ちかけたのは、市議の伊勢志穂(62)だ。ただ、本人に聞くと、自らの意見ではなく、もともとは交流のある市民の男性からの提案だという。

 その男性は、高校球児が甲子園の土を持ち帰る話を持ち出し「菊池雄星と大谷翔平(ともに花巻東高出)、佐々木朗希(大船渡高出)が投げた球場の土で、今の球児がプレーするのはよくないですか」という。お金がかからないことも強調したそうだ。

 岩手県出身の現役大リーガーは今季、佐々木朗希(23)=ドジャース=が加わり、3人に。大リーガーと高校球児が土を通じてつながっている。ボールとともに、少年野球の選手からプロ経験者までの思いが詰まっているのが「夢球」を球場に埋める企画だ。

 工事が続く開場前年、8月末の土曜日。夢球企画のセレモニーは催された。

 岩手県内で野球をしている小学生と中学生約計150人、佐々木朗ら岩手県出身のプロ野球選手、堀内恒夫(77)、上原浩治(50)ら元プロ野球選手らが将来の夢や野球場の願いなどを書いたボール「夢球」を各ベースの下に埋め込んだ。別のボールにも同じ言葉を書いてもらい、敷地内に展示している。

 提案したのは、球場の運営に携わる会社に加わっているテレビ岩手でアナウンサーをしていた平井雅幸(60)だ。

 平井は映画「フィールド・オブ・ドリームス」が好きだという。夢を追いかけ、トウモロコシ畑をつぶして野球場をつくったケビン・コスナーが演じる主人公と重ね合わせ、思いを書いたボールを埋めれば、夢がかない、みんなが集まる場所になることを期待した提案が実現した。「小中学生のたくさんの思いを込めたかった」という。

 球場運営に携わる盛岡市職員の吉田充(64)や清水建設盛岡営業所の外川隆治(48)は、夢球を書いた球児がきたぎんでプレーすることを楽しみにしている。

 大リーガーや強豪校だけでなく、子どもたちも含めて幅広い人たちのための球場をめざすことは19年に発表された整備基本計画に示されている。運営方針として、行政の関与度の違いから三つのパターンを示し、次のように結論づけている。

 「民間事業者の提案と行政による調整のバランスがとれる、『みんなの野球場』とするものである」=敬称略

きたぎんボールパーク 2023年4月オープン。両翼100メートル、中堅122メートル。2万人収容。大会開催時以外は、コンコースから外野通路まで1周570メートルのランニング、ウォーキングコースとして利用できる。本球場と同じ人工芝を採用したキッズスタジアムも人気。JR岩手飯岡駅から徒歩約15分、東北道盛岡南インターから車で約7分。プロ野球は5月20日に楽天―西武が行われる。

最近10大会の全国高校野球選手権の岩手代表

2015年 花巻東(3回戦)

 16年 盛岡大付(3回戦)

 17年 盛岡大付(準々決勝)

 18年 花巻東(1回戦)

 19年 花巻東(1回戦)

 20年 新型コロナで中止

 21年 盛岡大付(3回戦)

 22年 一関学院(2回戦)

 23年 花巻東(準々決勝)

 24年 花巻東(2回戦)

 かっこ内は全国高校野球選手権大会での成績

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