1996年、後に日本を代表するピッツァ職人となる小田原学さん(61)は雑誌「BRUTUS」を手に取った。特集はイタリア・ナポリのピッツァ。「どうしたらこんな風に作れるんだろう。本場の味を知りたい」。ナポリに飛んだ。それから約30年。小田原さんは料理人として大学教授になり、この春、絵本も手がけた。

 初めての海外一人旅。雑誌を頼りにたどり着いた店で、マルゲリータを注文した。もっちりとかみ応えのある生地。ぷっくりとふくらんだ縁の部分はサクッとしている。ほのかな焦げの香りはまるで餅のよう。「これまで食べてきたものと全然違いました」

 ピッツァの生地に必要なのは、小麦粉、水、塩、酵母のみ。生地を伸ばすのも窯で焼くのも手作業で、職人の感覚だけで作っていた。シンプルだからこそ腕が試される。興味をそそられた。

 何十軒も食べ歩き、一番おいしいと思った店の門をたたいた。見よう見まねでピッツァを焼く日々。師匠に「いつも生地に触れているように」と教えられ、毎晩持ち帰って感覚をつかんだ。

1997年、ナポリにピッツァの修業に行った頃の小田原学さん(写真左)=本人提供

 小田原さんは今、生まれ育っ…

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