難病とは

 5月23日は「難病の日」です。難病と聞いてどんなイメージを持ちますか。治療で症状を抑えながら働く患者も多くいます。一方で、障害者と健常者のはざまで悩みを抱える人も少なくありません。患者の医療費負担を軽くする制度をどう維持していくかも課題となっています。

 難病患者への医療提供や生活支援のあり方を定めた「難病法」が成立したのは、2014年5月23日。毎年この日に患者の思いを多くの人に知ってもらおうと、患者団体が記念日とした。

 法律上の難病とは、①原因や発症の仕組みがわからない②根本的な治療方法がない③患者数が少ない④長期療養が必要、という4条件を満たすものを指す。

 世界に数千あるとされる難病の中で、国の医療費助成の対象となるのが「指定難病」で、25年4月時点で348種類ある。

 助成を受けている患者は24年3月末時点で全国約109万人に上る。パーキンソン病(約15万人)、潰瘍(かいよう)性大腸炎(約15万人)、全身性エリテマトーデス(約7万人)、クローン病(約5万人)などがある。

体調崩しやすく、日々変動

 難病の症状は、日常生活への影響が大きいものから小さいものまで、さまざまだ。

 「高齢・障害・求職者雇用支援機構」前副統括研究員の春名由一郎さんは、どの難病患者も共通して「慢性的に体調を崩しやすい」と話す。

 疲労や倦怠(けんたい)感、痛み、発熱、集中力の低下といった外見から分かりにくい症状として表れ、日によって変動が大きいという。

 さらに病気ごとの症状が加わる。例えば、クローン病なら腹痛や下痢、重症筋無力症なら筋力低下が起こる。

 難病の治療は、根治が難しいため、症状を抑えたり進行を緩めたりすることが目的となる。定期的な検査や通院だけでなく、服薬や自己注射といった自己管理も重要となる。

 治療により、仕事ができる体調の難病患者も多い。春名さんらが22~23年、難病患者4523人から回答を得たウェブ調査では、70%が働いていた。

治療と仕事の両立にハードル

 ただ、春名さんは「難病患者は障害者手帳の認定対象でないことが多い。制度のはざまに置かれ、治療と仕事の両立が難しくなっている」とも指摘する。

 同じ調査で、障害者手帳を持つ難病患者は22・7%にとどまり、持っていない患者は、就職と離職を繰り返す傾向がみられたという。

 企業に義務づけられる障害者の法定雇用率の算定には、障害者手帳が必要で、難病というだけでは対象にはならない。難病患者は、健常者と同じ条件で採用試験に臨まなければならず、不利になりがちだ。

 希望する仕事に就けても、不当な扱いを恐れて病気を隠したり、通院のための早退や負担軽減が同僚から「特別扱いだ」「さぼっている」と誤解されたりして、それが体調悪化や離職につながっていることもわかったという。

 どうすれば、難病患者が働きやすい環境を整えることができるのか。

 春名さんは、まず、障害者雇用促進法が企業に義務づける、働きにくさを解消するための「合理的配慮」の対象に、難病患者も含まれているということを社会に広めるべきだとする。

 その上で、「職場の同僚や上司は難病だからといって過剰反応せず、子育て中や介護中の同僚を支えるのと同じように、どうすれば活躍できるか本人とよく話し合ってほしい。そのための支援制度もある」と話す。

医療費助成には要件も

 一方、膨大となった国全体の医療費の削減が大きな課題となっている。

 厚生労働省は、指定難病の医療費助成の総額が膨らみすぎないよう、指定難病に要件を設けている。患者数が国内人口の約0.15%(約18万人)より少なく、かつ客観的な診断基準があることの2点だ。

 さらに、患者が実際に医療助成を受けるには、症状が一定以上であることなどが必要だとしている。近年、厚労省の検討会では要件見直しに向けた議論も進んでいる。

 難病支援に詳しい新潟医療福祉大学長の西沢正豊さんは、「軽症の難病患者が医療費助成によって治療をつづけて働くことができれば、社会にとってコストに見合う投資になりうる。医療費削減の議論は、そのようなエビデンスを整理してから進めるべきだ」と話している。

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