「なおしていたスパイク、はいてみる?」
2024年11月、母・千夏さんの問いかけに、松岡大地さん(30)は目を見開いた。
びっくりしている、不思議そうな表情。
渡したい気持ちはずっとあったけれど、迷いもある、そんな問いかけだった。
鹿児島県曽於(そお)市に住む大地さんは、野球の大好きな小学生だった。小学2年生でソフトボールのスポーツ少年団に入り、練習に夢中になった。
念願の試合にも4年生のとき一度だけ出た。走り回り、声を張り上げ、力を振り絞ったプレーだった。
11歳だった2006年の夏、大地さんは学校の授業についていけなくなり、斜視の症状も出るように。
検査を重ね、冬に医師が告げた診断名は「副腎白質ジストロフィー(ALD)」。進行性で遺伝性の指定難病だった。
子どもの頃に発症すると、徐…