クモの巣のごとく天を覆う電線。無機質な灰色の電柱。景観の大敵かのように扱われてきましたが、熱視線を送る人も。俳優で「電線愛好家」の石山蓮華(れんげ)さんの目には、街と人々の営みを支える象徴と映ります。防災上の是非はひとまずおき、電柱と電線のある風景、やはり醜いですか?

電線愛好家の石山蓮華さん=本人提供

街の血管であり神経 人々の営み感じる

 ポカンと口を開け電線や電柱を見上げたまま、うっとりして時間が経つのを忘れることがあります。電柱の上にバケツ型の変圧器がでんと据え付けられたボリューム感ある風景にはため息が漏れるし、幾何学模様を描きながらあちこちの住宅や商店、ビルに電線が引き込まれる様は、人々の営みのエネルギーを見せてくれている気がして、力が湧きます。

 特に夜の電線は色っぽい。自ら送った電力による街灯で照らされた被覆が、つやつやと輝いている様に、ロマンを感じます。そんな電線と電柱の魅力を伝えたくて、俳優や文筆業の傍ら、電線愛好家を名乗って活動してきました。電線を見るためだけに海外にも足を運び、十数年間で撮りためた写真は1万5千枚を超えます。2022年には、日本電線工業会が公認する「電線アンバサダー」にも任命されました。

「電線の恋人」という著書もある電線愛好家の石山蓮華さん=本人提供

 私たちに電気を送り、通信で人々をつなぐ電線は、街の血管であり神経です。それを物理的に支える電柱は、高度成長期には年50万本のペースで設置され、復興や発展を支えました。その数は現在、全国で約3600万本。まさにライフラインです。

アニメでは重要なモチーフなのに……

 橋などの公共インフラと違って、電柱や電線にはデザイン性や意匠はありません。でも、電気工事士の人が1本1本、電柱に登って取り付けた電線には、余り分の丸め方などに、よくよく見ると職人技的な個性や性格が表れている。それはもう「作品」と言ってもよいのではないでしょうか。

 日本のアニメの背景には電柱や電線が丁寧に描きこまれてきたし、特撮作品では怪獣が引きちぎって火花がスパークする演出は欠かせない。サブカルチャーの世界では重要なモチーフであり続けています。にもかかわらず、世の中的には語る価値のないものと捉えられているためか、鑑賞対象として正面から論じられることはありませんでした。

 むしろ、電柱や電線は景観の…

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