岩手県大船渡市で起きた大規模山林火災が鎮火して1カ月過ぎた。その消火活動に従事した千葉善博さん(50)が今春、地元の大船渡地区消防組合消防本部を退職し、防災・減災の人材を育てる会社の設立準備を進めている。米ロサンゼルスの山林火災現場も視察し、「現場目線で防災・減災力の向上に尽くしたい」と使命感に燃えている。
千葉さんは1993年に消防士になり、救急救命士の資格を持つ。ライフセーバーとして水難救助の経験もあり、国際緊急援助隊の登録隊員でもある。
宮城県沖地震が30年以内に起きる確率が高いとの予測から、米で救助活動の研修を受け、2011年3月の東日本大震災時の捜索や救出活動に役立てた。震災ではロサンゼルスから大船渡市に消防士が応援に来た。千葉さんは受け入れ役として一緒に活動し、その後も交流を続けている。
三陸では火事や津波のほかに、土砂災害や水難事故のリスクもある。千葉さんは研修や交流を重ねるうちに、海外の先進的な装備や技術を採り入れ、救助にあたる人のレベルや住民の防災意識を高めていきたい思いが募っていった。消防士や消防団員を訓練するNPO法人に参加して指導していた千葉さんだが、消防署勤務の合間では時間的余裕が少ないため、家族を説得して独立することにした。
3月末に退職して4月上旬に渡米、震災後に知り合ったロサンゼルスの消防士の案内で山林火災の現場も視察、当時の消火活動の説明を受けた。
ロサンゼルスの火災は大船渡よりさらに広範囲に延焼し、日本のような針葉樹が密集する林より低木が多かったが、強風で飛び火して間隔があいている民家や街路樹も延焼したのは大船渡と似ていた。
地上の消防士の活動では、地面に溝を掘って延焼を食い止めたのが印象的だったという。「大船渡でも森林を再生するとき、そういう場所を造っておくことも必要では」と指摘する。
資機材の違いにも気づいた。ロサンゼルスの消防士は、長時間の作業に備えて水分や装備を入れたバッグを配備され持っていたり、建物火災より軽量で動きやすい防火服を着ていたりした。「山火事用の装備が日本でも必要だと思った」と話す。
今後は、大船渡市を拠点に、震災や今回の火災など32年間の経験をベースに、県内外で実践研修や防災・減災の講義、最新の資機材の紹介などを行うつもりだ。すでに福島県で消防士が災害救助犬を使った捜索訓練をする計画も進めているという。
「これまでにつながりを持った日本中の消防士も活動の必要性を感じている。協力者を増やしながら広げていきたい」と話している。千葉さんへの問い合わせは090・2367・9800。