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群馬県高校野球連盟会長に就任した同県立前橋工業高校長の上原清司さん=2024年5月28日午後4時15分、前橋市石関町、中沢絢乃撮影
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 「大会まで残された時間はわずか。選手のみなさんには、最後の最後まで心と体を整え、技を磨く努力を継続して、仲間と悔いのない夏の大会にしてくれることを期待します」。14日にあった第106回全国高校野球選手権群馬大会の組み合わせ抽選会で、各チームの主将らを激励した。

 前橋工業高の校長で、今年4月に群馬県高校野球連盟会長に就任した上原清司さん(58)。5月まで県吹奏楽連盟の会長も務めていた異色の経歴をもつ。「目標に向かって一生懸命練習して、勝って喜ぶ、負けて悔しがる。スポーツも音楽も一緒で、勝っても負けても感動をもらっています」

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 1966年、新治村(にいはるむら)(現みなかみ町)生まれ。小学生の頃に5年間、少年野球を経験。中学生から打ち込んだ卓球では全国16位の結果を収めた。

 沼田高から都留文科大学文学部に進み、卒業後は県内で国語教員に。部活動では卓球の指導にあたり、当時女子校だった吾妻高(現吾妻中央高)では、部を県で7連覇に導いた。

 指導を受けた部員の一人、今井美幸さん(45)は「まさに熱血先生」だったと思い出を語る。

 「いつも厳しい言葉で指導されたけど、わざわざ大型バスの免許を取って私たちをマイクロバスに乗せて遠征に連れていってくれるなど、今思うと家庭も顧みずに休日返上でいろんなことをしてくれた」。当時はあまり意味が分かっていなかった叱咤(しった)激励の言葉も、仕事と子育てを両立する大人になった今、「生きている部分がたくさんある」という。

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 校長は3校目。現場で生徒たちと密接に接する機会は減り、学校の運営面の課題に向き合う。

 近年はスマートフォンやSNSが普及して「どんな地域に住む子供でも情報を得ることができて便利な半面、気軽にいじめや中傷をしたり、人をおとしめたりすることが増えた」と上原さんは実感している。そうした問題を学校側が完全に把握することはもはやできず、「スマホを『使わせない』よりも、『どう使わせるか』を伝えていかなければいけない」と考えている。

 自身が子供の頃、「先生は『偉かった』。授業は座学の講義ばかりで、ずっと自分の好きな話をいる人もいた」。時代とともに、グループワークを採り入れたり、電子端末を使ったりと授業に工夫や準備が求められるように。保護者からの要請も大きくなり、学校での出来事がすぐにSNSに書き込まれることにも神経を使うようになった。

 教員の仕事が増える一方の中、「優先順位を付けて、下位のものを『やめよう』と言っていくのが今の自分の仕事。ビルドがあれば、スクラップも必要なんです」。

 全国的に中学校を中心として進められている部活動の地域移行も、その一つ。ただ、吹奏楽と野球を見てきた中ではまだ難しさを感じている。

 まず指導者の確保が大変だ。「今はたまたまその地域に教えられる人がいるという『偶然』に頼らなければならない状態」。練習場所にティンパニやコントラバスなどの大きな楽器を都度運ぶことも現実的ではない。

 サッカーなど様々なスポーツの人気が出てきたことで野球人口が減少しているのも課題だ。そんな中、地域移行は「中学校の取り組みを様子見している段階」だという。

 「まだまだ模索中。でも、何かしら手探りでやってみることがとても大事。いい解決策が見つかるかもしれないから」

 部活動の直接の指導からは離れたが、元県吹連会長、現県高野連会長として、のびのびと部活動に打ち込める環境を作りたいと願う。「ゲームとか多様な娯楽がある中で、青春をかけて部活をやりたいという子供たちを、大人がしっかり応援しなくちゃいけない。そんな青春の場面に立ち会うことができて、幸せをもらっている立場として」(中沢絢乃)

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