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正しさをめぐる議論が停滞している「宇宙際タイヒミュラー理論」の論文
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 これほど称賛され、恐れられ、無視されている論文も珍しい。京都大学数理解析研究所の望月新一教授(55)が発表した「宇宙際(うちゅうさい)タイヒミュラー理論」。専門家による検証を経て、超難問「ABC予想」を証明したと発表された……が、多くの数学者たちが納得していないのだ。

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 「興奮」の始まりは2012年夏。500ページに及ぶ理論が望月さんのホームページに公表され、数学界は驚きに包まれた。「数学の女王」と言われる整数論で、ABC予想は難問中の難問だった。

 ただ、理論が長大で難しすぎた。「どこが分からないのかさえ分からない」と数学者たちは漏らし、「未来から来た理論」と恐れた。英字の論文を私も読んでみたが、分かるはずもなく最初の2~3行であきらめた。異例の7年半に及ぶ検証を経て、論文が数学誌に掲載されたのは21年春だった。

正しいのか間違えているのか、議論は停滞

 だが、正しいとみなされた理論なのに外部から「修正不能な飛躍がある」との指摘が消えなかった。理解者は世界で20人程度。ほとんどの数学者は判断不可能。「正しいのか間違えているのか」という議論は膠着(こうちゃく)状態に陥り、今に至る。

 望月さんは魅力的な人柄だ…

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