安定した民主国家のはずの韓国で昨年末に起きた「非常戒厳」宣布。唐突と思われた尹錫悦(ユンソンニョル)前大統領の「暴走」の背景には、政権によるメディア弾圧と、それに抗する記者たちの闘いがあった――。そんな知られざる隣国の政治劇の深層に迫ったドキュメンタリー映画「非常戒厳前夜」が6日から公開されている。ジャーナリストとは何か、という問いを日本の報道界にも突き付ける作品だ。

検察の取り調べに応じた際の「ニュース打破」の金鎔鎮(キムヨンジン)さん=「非常戒厳前夜」から(C)KCIJ-Newstapa

大統領への「名誉毀損」で訴追される記者

 監督を務めた金鎔鎮(キムヨンジン)さんは、非営利独立系メディア「ニュース打破(タパ)」の記者そして代表として、尹氏が検事総長に就く2019年頃から、選挙への不正介入や夫人の株価操作の疑惑を調査報道によって追及してきた。

 22年に尹政権が誕生すると、ソウル中央地検は、大統領選でフェイクニュースを流したとして、ニュース打破本部と記者2人の自宅を捜索。金監督らを大統領への名誉毀損(きそん)罪で起訴する。与党議員は国会で「死刑に値する反逆者」と口を極めてニュース打破を批判した。しかし記者たちは、自らに向けられた言論弾圧を克明にカメラに収めながら、さらなる調査報道によって尹政権を追い詰めてゆく。

 「有事でもないのに、なぜあ…

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