東京・下北沢の商店街の雑居ビルにある小さなライブハウス「空飛ぶこぶたや」はこの夜、熱気に満ちていた。
スポットライトが照らすステージに、この日の主役があがると、満員の客席から大きな拍手と歓声がわいた。
「アンニョンハセヨ、いつも本当にありがとうございます!」
声の主は、4月にメジャーデビューを果たした歌手の歌心(うたごころ)りえさん(51)。情感豊かに1曲目を歌い出すと、会場は優しい音色に包まれた。
この日の曲目には、「恋人よ」(五輪真弓)、「道化師のソネット」(さだまさし)といった日本の歌謡曲が多く並んだ。
会場には韓国のファンも多く駆けつけた。
ソウル近郊から訪れた女性(55)は、「声がきれいで、歌っている時の表情も好き。韓国の番組にもっと出て、日本語の曲も韓国語の曲も歌ってほしい」。この日のために来日し、日本に留学中の娘(27)と聴きに来た。「番組で見るより、実物の歌声がすごかった」と満足そうな笑顔を見せた。
歌心さんがブレークするきっかけになったのは、韓国のテレビ局MBNが昨年放送した歌番組「韓日歌王戦」だ。
日本語で歌った「雪の華」(中島美嘉)は、MBNのYouTubeチャンネルで1千万回以上、再生された。コメント欄には「美しい風景画を見ているようだ」「天から与えられた声だ」などと歌心さんをたたえる韓国語の投稿があふれた。
記事の後半では、歌心りえさんのライブ当日の動画と、日本語の歌謡曲が規制されてきた韓国の歴史をお読みいただけます。
■日本の歌がタブーだった歴史…