チョン・セランさん=2024年11月、京都市左京区

 いま世界で注目を浴び、日本でも多くの作品が翻訳されている韓国文学。そのなかでも、チョン・セランさんは人気を集めている若手作家のひとりだ。暴力や社会の理不尽に、優しさで対峙(たいじ)する物語の背景には、「書くことによって誰かを助けたい」という思いがあるという。執筆のテーマや、日本語訳の最新刊「J・J・J三姉弟の世にも平凡な超能力」(古川綾子訳、亜紀書房)について聞いた。

 1984年生まれ。2013年、「アンダー、サンダー、テンダー」でチャンビ長編小説賞を受賞。ある病院に関係する50人の短編を集めた「フィフティ・ピープル」や、Netflixでドラマ化された「保健室のアン・ウニョン先生」など多彩な作品で知られる。

 ――作家を目指し始めたのは、出版社で編集者として働いていたときだったそうですね。

 もともと本を読むのが好きで、出版社に入社しました。最初は児童文学の部署でしたが、あるとき文芸誌に配属が変わったんです。できたてほやほやの作品が生まれる現場でした。ぐつぐつ煮立つ鍋を見つめているような気持ちになるうちに、自分の中にも書きたいというエネルギーが湧いてきました。

 ――50の短編で50人のストーリーを描く「フィフティ・ピープル」(斎藤真理子訳、同)をはじめ、チョン・セランさんの作品にはチャーミングで親しみを感じられる人物が多く登場します。それぞれの性格や感情が丁寧に描写されていますが、どのように人物像を作っているのでしょうか。

 もともと人が好きで、人に会うのも好きなんです。そして私は、人のかわいいところにすぐ気がつく方だと思います。

 例えば、仕事を頑張っている会社員の友人がいます。管理職なので会社では厳しい顔をしているのですが、実はかわいいものが好きだという一面があって。人の一貫性の無さ、意外な柔らかさをうまく加工して、物語の中に溶かしていくのが得意ですね。

「人間の両面性」が鍵

 ――作品を読んでいると、個性的なキャラクターやユーモアのあるエピソードに引き込まれて読み進めるうちに、物語の背景にある人間や社会のゆがみに行き当たる感覚があります。どんなことを意識しているのでしょうか。

 まず私自身、人間という種の一員として、人を理解したいという気持ちが強いです。

 例えば、地下鉄の線路に人を…

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