高村薫さんの新刊長編「墳墓記」(新潮社)の世界に足を踏み入れると、日本語の海にたゆたう思いがする。気づけば、混然とした言葉の響きにすっぽり包まれている。
能楽師の家に育った元法廷速記者の男は自死をはかったが、未遂となる。その夢想のなか、万葉集や源氏物語、平家物語、太平記といった古典世界の声がよみがえる。現代文と古文を融通無碍(むげ)に行き来しつつ、物語は深まっていく。
「日本語の幅をぎゅっと押し広げたかったのです」と高村さん。多彩な作品を手がけてきて、また新しいことに手を広げようと、現代文と古文を交ぜたのだと話す。
古文とは中学生の時に授業で出会ったが、まともに勉強しないできたという。知らないからこそ、首をつっこんでみようと思った。「苦手なものに一つ一つ落とし前をつけていくのが、私の人生なのです」
今回、あまり親しんでこなか…