演劇好きの両親の影響で小学生から芝居を始め、大学で演劇を学んでいた19歳の時、演出家から「舞台に立つのはあきらめなさい。クリエーティブな仕事は無理だから」と告げられた。
兵庫県尼崎市のピッコロシアター(県立尼崎青少年創造劇場)の広報交流専門員、古川知可子さん(53)には、そんな苦い思い出がある。
それでも演劇の世界をあきらめられず、「演劇を見に来る人を増やす仕事に」と財団法人兵庫現代芸術劇場(現・兵庫県芸術文化協会)に就職。2003年からピッコロシアターと兵庫県立ピッコロ劇団の運営に携わる。
イタリア語で「小さい」を意味する「ピッコロ」。全国初の都道府県立劇団として設立されたピッコロ劇団は、6月で旗揚げ公演から30周年を迎えた。
足かけ10年にわたって取り組むのが、視覚障害者向けの「音声ガイド」。
観客は舞台上の俳優のセリフを聴きながら、登場人物の動きや舞台セットの説明を受信機のイヤホンで聴き、「脳内で作品世界をガッチャンコさせる」(古川さん)。
演劇はセリフの間合いが上演ごとに微妙に異なるため、音声ガイドのナレーターは舞台裏で俳優たちの動きを見ながらナレーションを読む。
始めた当初はプロのアナウンサーにナレーターを依頼した。ただ、説明を正確にしようとすると、情報量が多くなってしまう。「情景を想像する余地がなくなる」という声もあった。
そこで、3年目からは正確な…