Smiley face

 戦争が浮き彫りにした人種差別、日系人や性的マイノリティーが味わった理不尽、尊厳を踏みにじる性暴力、女性として生きることの苦悩――。

 戦後の日本と米国で生きた、日本人女性2人と米兵の男性2人。それぞれの視点から戦争を描いた「線場(せんじょう)のひと」(リイド社)上下巻が今年4月、完結した。漫画家で、現代美術家でもある小宮りさ麻吏奈(まりな)さん(32)のデビュー作だ。

写真・図版
「線場のひと」作者の小宮りさ麻吏奈さん。アシスタントを入れず、背景まですべて自身で描いた=2025年7月22日、杉並区高円寺北2丁目、岩波精撮影

 1948年、ヨリコが疎開先から東京に戻り、仲良しだった同級生ハルを捜す場面から、物語は始まる。2人は再会を果たせないまま、それぞれ進駐軍の兵士と結婚して米国へ。希望を求めた米国での暮らしもまた、何重もの差別が降りかかる過酷な日々だった。戦後50年あまりが過ぎたころ、ヨリコは再びハルを捜し始める。

 終戦から80年。戦争の「リアル」を漫画で次世代につなごうとしている3人を取材しました。今回は、戦後を生きた日本人女性と米兵を描いた「線場のひと」の作者・小宮りさ麻吏奈さん(32)です。

  • 「死はすぐ隣にあった」 ちばてつやさん、漫画に刻んだ戦争のリアル
  • シベリア抑留と大空襲 おざわゆきさんが漫画でつないだ、両親の記憶

「いないこと」にされた人々を描く

 作中、戦争がもたらすあらゆる暴力が描かれていく。「線場」という言葉で、国境や人種、国籍、セクシュアリティーなどのはざまにある「線引き」、そして、戦争が終わってもなお「戦場」で生きた人たちを表現した。

 小宮さんは、祖父母が戦争体…

共有