手を入れるとホッと安らぐ、飾りのついた筒状ニット製品。認知症高齢者のケアに使われる「認知症マフ」をご存じですか。6年前からだんだん広まってきましたが、中心になって編み方を伝えているのがニット作家の能勢マユミさん(59)。教室やテレビ番組でかぎ針編みを教えてきた能勢さんは、マフを通して地域福祉というテーマに出会いました。
「かぎ針編み」教える能勢マユミさん
――編み物は独学だそうですね。
父が大工で、母は編み物の師範の資格を持っていました。ものを作るのが当たり前という環境だったんです。かんなの削りクズや木の端っこを使って遊んでいた延長線で、母に黙って毛糸を引っ張り出して、編み始めました。
でも、母に習ってはいません。編み物の専門学校にも服飾系の学校にも行っていません。大阪の百貨店に就職して、顧客案内係をしたり、宣伝部でディスプレーの仕事をしたり。結婚して、趣味でコースターやフォトフレームを編んでいたら、目にとめた知人が雑貨ショップに置いてくれました。雑誌やテレビで取りあげられ、カルチャーセンターで教えるようになったんです。基本がないまま、プロになってしまった。自分が教えていいのか葛藤して、苦しんだ時期がありました。
――教えることに自信がついてきたのは。
不妊治療をしていたのですが、40代で治療をあきらめ、考えました。自分の子どもは授からなかったけれど、編み物のやり方は教えることで残せる。オリジナルの編み図も私の遺伝子を残すことになるかなと。
自己肯定感が低かったのです…