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 パレスチナ自治区ガザで人道危機に歯止めがかからない。攻撃の手を緩めないイスラエルに対して、フランスが事態の打開を図ろうとパレスチナ国家承認の可能性に言及した。英国も非難を強め、イスラエルと欧州の対立が深まっている。

配給所で続く銃撃

 「午後の唯一の食事は、スプーン1杯のレンズ豆。パンはもう数週間、口にしていない」

 ガザ北部ガザ市に暮らすムハンマド・サファディさん(45)は、朝日新聞の電話取材に語った。3人の子どもと妻がいるが、今や1日1食の生活に追い込まれている。

 3月2日以降、イスラエルは2カ月半にわたり、ガザのイスラム組織ハマスに圧力をかけるためとして、国連やNGOによる人道物資の搬入を完全に停止。5月19日に限定的に再開を認めたが、必要な支援にはほど遠い。

 サファディさんによると、トマト1キロ60シェケル(約2500円)、小麦粉1キロ100シェケル(約4200円)、砂糖は1キロ250シェケル(約1万500円)。肉は完全に手の届かない存在となった。「(イスラム教の祝日で肉を食べる習慣がある)犠牲祭期間中だというのに、今日も鍋のレンズ豆を温めて終わりだ」

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パレスチナ自治区ガザ南部マワシの避難民キャンプのテント内で2025年6月6日、米とレンズ豆のスープの食事を取る子どもら=AP

 米国主導で設立された「ガザ人道財団」(GHF)が5月末に配給を開始した。だが、国連の配給拠点は約400カ所あったのに対し、GHFの拠点は4カ所。イスラエル軍が周辺で治安維持を担い、「支援とは呼べない」との批判が強まっている。

 配給所周辺ではイスラエル軍による発砲が相次ぎ、ガザ当局によれば130人が死亡したという。

 サファディさんはGHFの配給所を見に行ったものの、もう行かないと決めた。銃撃が続き、命の危険を感じたという。「人が密集し、食料を得られる保証もない。尊厳を無視した仕組みだ。命をかけている私たちに屈辱を与えるものだ」

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ガザの状況

「イスラエルが例外の時代は終わった」

 国連人道問題調整事務所(OCHA)は、「ガザは世界で最も飢餓が深刻な地域」と警鐘を鳴らす。国際人道法は、民間人の保護を求め、支援の妨害を禁じているが、現在の状況はその原則から逸脱していると批判が集まっている。

 国連や支援団体は、GHFの配給が、住民に移動を求めるイスラエル軍の軍事的な目的に沿ったものだとして、従来の国連主導の支援体制に戻すよう求めているが、イスラエル側は応じていない。ガザ北部や南部の主要病院では燃料不足が深刻化し、数日以内に閉鎖の恐れも出ており、医療崩壊が懸念されている。戦闘開始からの死者は5万5千人に迫っている。

 欧州諸国がイスラエルに対する外交姿勢を変化させているが、その背景には、こうした現場の逼迫(ひっぱく)した人道状況がある。

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パレスチナ自治区ガザ中部で2025年6月8日、米国主導の「ガザ人道財団」(GHF)の支援物資を運ぶ男性=AFP時事

 もう一つのパレスチナ自治区ヨルダン川西岸を統治するパレスチナ自治政府は、欧州諸国の姿勢を歓迎する。ムスタファ首相は5日、朝日新聞の取材に「イスラエルだけが例外として扱われる時代は終わった。ガザでの蛮行は国際社会の認識を変えた」と述べた。イスラエルとの和平交渉の出発点となるとして、主要7カ国(G7)初のパレスチナの国家承認などに期待を示した。

 一方、イスラエル政府は強く…

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