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七尾城山野球場のグラウンドに設けられたボランティアテント村=2024年3月25日、石川県七尾市、角野貴之撮影
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 近年頻発している大災害。最前線で対応に当たった市町長らの体験談をまとめた「首長たちの戦いに学ぶ 災害緊急対応100日の知恵」(ぎょうせい)が4月、出版された。2004年の新潟県中越地震から、昨年の能登半島地震まで七つの災害をピックアップ。この20年で蓄積された経験や知恵が盛り込まれている。

 編集したのは、新潟県長岡市長として中越地震の対応に当たった森民夫さん(76)。旧建設官僚として、阪神・淡路大震災で被災建物の危険度判定に従事したことのある森さんも発災直後は「青天の霹靂(へきれき)、大慌てでした」。首長として何をすべきか、急いで資料を探したが、参考になるものは見つけられなかったという。

 その後の20年で災害は続発。蓄積された教訓をまとめ、今後の備えに役立てられないか――。そんな思いが出版の動機となった。東日本大震災など7災害に関わった首長14人らが、それぞれの体験談を執筆。一部は専門家がインタビューするなどして編集を進めた。

 体験談の一例として紹介されているのが、能登半島地震で岡山県総社市の片岡聡一市長と登山家の野口健さんが協力し、石川県七尾市の野球場に100張り分のテントを設営した事例だ。

 ボランティア活動の拠点となり、67日間で延べ5234人が986世帯で活動した。被災した同球場の外野芝生にテントを張ることには慎重論もあり、関係機関との調整に時間を要したという。

 18年、総社市内で関連死を含め12人死亡の水害を経験した片岡市長は「応援するより応援を受ける方が数段高度な実力を求められる」と指摘。国や都道府県など多くのアクターが関わる災害対応について「基礎自治体の判断を最優先することが復興への最短の近道だ」と説いている。

 森さんも秘話を紹介。中越地震の被災者が仮設住宅で理容業を再開したいと申し出たが、国は「あくまで住宅、店舗営業はまかりならん」。だが、森さんはコミュニティー再生にも必要だと考え、国の返答を無視して営業を認めた。

 その後の東日本大震災から、中小企業基盤整備機構が事業者に無償で仮設店舗を貸し出す仕組みが根付いた。森さんは「災害のたび、制度は改善されている」と実感する。

 20年間の体験談は「教訓の宝庫」と森さん。「国やNPO、民間企業の支援にも大いに役立つ」と話している。税別3500円。問い合わせは、ぎょうせい(0120・953・431)まで。

 紹介された七つの災害と首長

●新潟県中越地震(2004年):森民夫・前長岡市長

●東日本大震災・東京電力福島第一原発事故(11年):山本正徳・岩手県宮古市長、菅原茂・宮城県気仙沼市長、佐藤仁・同県南三陸町長、立谷秀清・福島県相馬市長、山本育男・同県富岡町長

●広島豪雨(14年):松井一実・広島市長

●熊本地震(16年):大西一史・熊本市長、西村博則・熊本県益城町長

●西日本豪雨(18年):伊東香織・岡山県倉敷市長

●豪雨災害(22年):仁科洋一・山形県小国町長

●能登半島地震(24年):泉谷満寿裕・石川県珠洲市長、茶谷義隆・同県七尾市長、片岡聡一・岡山県総社市長

 もり・たみお 1949年生まれ。新潟県長岡市出身。長岡高校、東京大学工学部建築学科卒。民間に就職後、75年旧建設省入省。住宅局住宅整備課地域住宅計画官などを歴任、阪神大震災で建築物危険度判定支援本部長。99年長岡市長選で初当選以来4期余り在任、全国市長会長も務めた。一般社団法人NEXT代表理事。

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