放送は技術の進歩とともに発展してきた。100年の歴史を経て、より美しく、より広範囲に届くメディアとして。4K、8K放送の先にある新時代の技術の一つは「没入感」だ。近い未来、テレビでにおいや手触りも体感できる?
世界に先駆けた8Kの現状「悔しい思いも」
日本の放送は、1925年のラジオ放送開始を皮切りに進化してきた。53年には白黒テレビ放送が始まり、60年にはカラーテレビ放送が登場。89年には衛星放送がスタートし、人工衛星から電波を送ることで、山間部や離島でもあまねく届けられるようになった。
進化を支えてきたのが、国内唯一の放送技術の専門研究機関「NHK放送技術研究所(技研)」だ。30年、東京都世田谷区砧(きぬた)に設立。民放にも広く提供され、実用化された技術も多い。
例えば、64年に研究を始めたハイビジョンは、94年に実用化。82年に研究を開始したデジタル放送は、2000年にBS、03年に地上波で実用化された。電子番組表情報などのデータも送れるようになった。
技研の研究企画部、中島奈緒さんは「放送の歴史は、技術革新の歴史でもあった。技術は今日始めて明日できるものではなく、粘り強い研究開発によって成し遂げられてきた」と強調する。
近年では、18年に4Kと8K放送がスタート。中でも8Kは、世界に先駆けて開発されたが、家庭への普及は思うように進んでいない。中島さんも「技研としても悔しい思いがある」と明かす。
ただ、放送以外にも活用の可能性は広がっていて、高精細映像の利点をいかした医療応用や、美術館などでの作品記録、保存といった分野での展開を視野に入れている。
「没入感」を目指して
現在、技研が力を入れている研究は何か。昨年、2030~40年ごろのメディアを想定した研究開発の重点領域の一つを、その場にいるような体験ができる「イマーシブメディア」にした。イマーシブは「没入型の」と訳される言葉だ。
イマーシブの研究には二つの軸があるといい、29日から6月1日まで同研究所で開かれる「技研公開2025」(午前10時から午後5時、入場無料)で、成果の一端が体験できる。
一つ目の軸は「感覚の拡張」だ。これまでの視覚、聴覚に加えて、触覚、嗅覚(きゅうかく)といった多感覚の研究を進めている。
今回の展示では、触覚と香り…