Re:Ron(リロン)編集部から

 香港の民主活動家で元区議の葉錦龍(サム・イップ)さん(37)=写真=に初めて会ったのは2018年12月のことだ。14年の雨傘運動を振り返る東京・渋谷でのトークイベントに周庭(アグネス・チョウ)さん(27)らと登壇していた。

 「催涙弾をたくさん食らい、死んじゃってもおかしくない状況でした」。間一髪の経験を葉さんは流暢(りゅうちょう)な日本語で軽やかに語った。「どこで日本語を学んだんですか」と尋ねると、「YouTube。漫画とアニメが好きで」と笑った。

 「元々は楽な方に流れるタイプ」と自称する彼が、民主と自由を求めてデモを続け、2度逮捕・拘束されて負傷もした末に、22年10月に妻や愛猫2匹と日本に移り住んだ。政治活動や言論の統制が強まり、生計を立てる道も絶たれての苦渋の決断だ。

 23年春からは東京大学大学院修士課程で東アジア政治などを研究し、SNSなどでの発信も引き続き、果敢に続けている。香港移民に特別ビザを発給する英国などと違い、彼のような存在は日本には多くない。経験や思いをRe:Ronに寄稿してもらったうえ、雨傘運動から9月で10年になるのを機にオピニオン面向けに加筆してもらい、5日に掲載した。

 ただし香港政府は域外での活動にも目を光らせ、23年には日本留学中のSNS投稿を問われた女子大学生が香港で実刑判決を受けている。24年3月には国家安全維持条例も施行された。そうした懸念も含め聞くと、「今の香港にはもう帰れない気持ちで日本にいます。ぜひ書きたい」。

 国境を越えても発言に覚悟が要る状況が同じ東アジアで続き、どんどん悪化している。そのことに思いをはせながら、葉さんの寄稿を読んでほしい。(藤えりか)

共有
Exit mobile version