最高賞の賞状とメダルを手にした森下咲良さんと受賞作「左繍叙」=2024年8月29日午後6時14分、茨城県龍ケ崎市の県立竜ケ崎第一高校、福田祥史撮影

 「大変なことになってしまった」

 夏休みを前にした7月中旬、茨城県立竜ケ崎第一高校3年で書道部の森下咲良さん(18)=同県龍ケ崎市=は、学校の書道室で顧問の大古(おおこ)光雄先生(69)からそう言われた。

悪い予感がした。応募した第25回高校生国際美術展(世界芸術文化振興協会主催)の審査結果が届いていた。「やっぱり、だめだったかな?」。賞を狙って書いたが、納得できる作品にはなっていなかった。昨年も一昨年も佳作。入賞には至らなかった。

 先生が口にしたのは、思いもよらない言葉だった。最高賞「キングズ・ファウンデーション(英国王財団)賞」に選ばれた――。応募9766作品の頂点だった。「はっ?」。驚いた。うれしさがこみ上げてきたのは、少し後だった。

 受賞作「左繍叙(さしゅうのじょ)」は、江戸時代後期の文人で、「幕末の三筆」と称される貫名菘翁(ぬきなすうおう)が残した文の書き写しだ。躍動感や力強さを目指したという。審査員は「(筆の)穂先が利いた強い線で、文字としてのリズムの一貫性に加え、全体のまとまりがいい」と講評した。

 書道を始めたのは5歳の頃だった。はっきりとは覚えていないが、「おばあちゃんが書道ってこういうものだと教えてくれて、やってみたいとおかあさんに言ったのがきっかけだったと思う」。中学3年までは近所の書道教室に通い、進学後は高校の部活動に絞って練習してきた。

 「自分のリズムに乗って書いているのがすごく楽しくて。ただ、高校生になると、やっぱり良い賞を取りたいと思ってやってきた」

 昨秋の第51回全国学生比叡山競書大会(朝日新聞社など後援)では、上位6番目の京都府知事賞を受賞したが、「残念」と悔しさをあらわにした。集大成の今夏、高校生国際美術展の最高賞のほか、第48回全国高校総合文化祭でも、別の作品で特別賞を受けた。

 「とにかく熱心。いつも目標を持ってやっていた」と大古先生。本人は「楽しいのと、なかなか褒めてくれない先生に褒められたい気持ちがあって……」と笑う。

 書道を通して、一つのことをやり続ける意味を学んだという。「試行錯誤しながら自分を成長させる。期待した結果が出ないときも、くじけず前に進む力が身についた」

 書道は、政府がユネスコ(国連教育科学文化機関)に無形文化遺産への登録を提案している。将来、書道の魅力が世界中に広まればと願う。そのために自分にも何かできないかと考える。

 これまでのように、ひたすら書くことは、もうないと思う。「これからは、書道が日本に興味を持ってもらうきっかけになるよう、伝える立場として関わっていきたい」(福田祥史)

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