「キッズ・ベースボールフェスタin高知」で、参加した子どもに付きそう高校生たち=2024年12月、高知市春野町芳原、原篤司撮影

 「やっぱりお菓子が好きそう」「どうすれば思い出に残ってくれるんだろう」。制服の違う高校生の男女が、頭をひねりながら、思いついた案を積極的に書き出していた。

 昨年11月10日、高知県内で一つの取り組みがスタートした。高校生が主体となって未来を考える「高校野球改革プロジェクト」だ。

 未就学児や野球未経験者の小学生を対象としたイベント「キッズ・ベースボールフェスタin高知」が約1カ月後に迫っていた。イベントの最後には、子どもたちにプレゼントを手渡す予定だ。

 思い出に残る一日にしてもらうために、プレゼントは何が良いのか。9校16人のマネジャーや選手が参加した第1回ミーティングで、学校の垣根を越えて意見を出し合った。

 「県内の未来を考えるからこそ、高校生の力を借りたかった」。県高校野球連盟の酒井粋・理事長はそう話す。県内の硬式野球部員数は年々減っており、2024年度で862人と、全国で鳥取に次いで少ない。

 未就学児向けのイベントは、高知県高野連としては初めて。話し合った部員たちは、段ボールでガチャガチャを手作りしてチョコレートを入れ、「またいっしょにやきゅうをしよう」などとメッセージを添えて子どもに渡すことにした。

 12月に開催された「キッズ・ベースボールフェスタin高知」は子どもたち85人が参加して盛況となった。県内の野球部員らが、子ども一人ひとりに付き添い、的あてや遠投、ホームラン競争など一緒にボール遊びを楽しんだ。

 NPB(日本野球機構)から派遣されたアカデミーコーチも参加した。都道府県高野連とNPBは各地で協力しており、NPB野球振興室の金子大志さんは「野球教室のノウハウはこちらが提供し、代わりに高野連さんから人員を出してもらうことで、うまくイベントが運営できている」と話す。

 お土産のボールやお菓子を手にした子どもたちの笑顔を見て、追手前の中屋優菜さん(3年)は「これをきっかけに野球に興味を持ってくれたらうれしい」とほほえんだ。

 プロジェクトに参加した部員たちは今年3月、再びミーティングを開いた。テーマは「野球部員を増やすためにはどうすればいいのか」。少子化が進む中で、野球界が抱える難しい課題だ。「休みが少ないイメージがダメなんじゃない?」「もっと活動を知ってもらわないと」。SNSやホームページを使った情報発信など、様々な案が挙がった。

 25年度は、新たなメンバーでプロジェクトが始動する。土佐塾の安岡結子さん(2年)は「新しいことを自分で考えて実践し、成功できたことが楽しかった」と活動を振り返った。安芸の山崎康平さん(3年)は「こんなに高知の野球のことを考えたことは今までなかった。次の世代に魅力を伝えたい」。

 酒井理事長は「みんなで課題を解決しようとする力が、各チームに戻ってもプラスになるのではないか」。自分たちの未来は、自分たちで考える。地道な活動はまだ始まったばかりだ。

「200年構想」の5大目標

 このプロジェクトのきっかけとなったのが、2018年に日本高校野球連盟などが掲げた「高校野球200年構想」だ。

 選抜大会が第90回、選手権大会が第100回の節目を迎えた18年、日本高野連と朝日新聞社、毎日新聞社の3者が「次の100年」をめざすために発表した。「普及」「振興」「けが予防」「育成」「基盤作り」を5大目標に掲げ、全国選手権大会の収益などを原資として各都道府県連盟に事業の援助を行っている。

 硬式野球部員数は14年度の17万312人をピークに全国的に減り続けており、24年度は12万7031人。特に鳥取、徳島、高知は1千人を切った。日本高野連は、この3県を「3カ年重点支援事業」として費用を援助することで、普及や振興の活性化を促している。

 鳥取県高野連は「1校1園制度」を掲げる。24の加盟校がそれぞれに幼稚園や保育園とつながり、野球に興味を持ってもらおうと軟らかいボールやバットで遊ぶ企画だ。24年度は計26件の活動が行われた。田村嘉庸理事長は「近隣の未就学児とできた縁をもっと広げたい」と語る。

 少子化やスポーツの多様化などによる野球部員数の減少が続いている。競技の普及活動、けがの予防策など、「持続可能」な高校野球につながる特徴的な取り組みに迫った。

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