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アナウンス講習会でオーダーを読む練習をする野球部のマネジャーたち=2025年6月28日午後2時3分、前橋市石関町の群馬県立前橋工業高校、中沢絢乃撮影
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 夏の風物詩・高校野球が今年も盛り上がりを見せている。8月5日開幕の第107回全国高校野球選手権大会(朝日新聞社、日本高校野球連盟主催)の49代表校を決める地方大会が全日程を終えた。各地方大会の運営を支える役割の一つに、球場アナウンスがある。7月27日に閉幕した群馬大会でのアナウンスの現場に同席した。

アナウンス講習、88人の女子マネジャー参加

 6月28日、群馬県立前橋工業高校の大会議室で、群馬大会へ向けたアナウンス講習会があり、群馬県高校野球連盟加盟校のうち37校から88人の女子マネジャーが参加。プロ野球独立リーグ・群馬ダイヤモンドペガサスなどで場内アナウンスを担当するフリーアナウンサー松本亜希子さん(42)と、スポーツ栄養学を専門とする新潟経営大学経営情報学部助教の宇佐美知代さん(38)が講師を務めた。

 群馬大会ではマネジャーが球場アナウンスを担う。講師2人も高校時代に担当した。松本さんはまず「高校生らしく、明るく元気にハキハキと。これが全て」と説明した。

 球場アナウンスは、試合進行に伴う放送や来場者への案内放送がある。選手の打順や守備位置を読み上げる際の「3番」「4番」「ファースト」や「セカンド」などの発音を確認し、「文章を細かく切らずに、息が続く範囲でなるべく一息で読む方がいい」などと指導した。

 難しいのが、試合中の選手交代のアナウンス。代打や代走、守備の変更などが複数ある場合は「出場順に読む」「ポジション順に読む」といった法則がある。複雑なパターンを想定して松本さんと宇佐美さんがお題を出し、みんなで伝える順番を練習した。

 全く経験のない筆者も恥ずかしさをこらえて、練習用のオーダー用紙を手に先発メンバーを読み上げてみた。緊張しつつも普段の話し言葉と同じように平坦(へいたん)に読んだ。

 松本さんは「ストレートな読み方で、一般のお客さん目線だと聞きやすい」とほめてくれたが、「できれば笑顔で、ちょっと口角を上げて話すだけでも、声も笑顔になって、明るい感じの声になる」と助言してくれた。

大会本番、試合始まると中断できず

 群馬大会の本番。7月19日、高崎市城南野球場の放送室に入り、アナウンスに密着した。この日は東農大二の野球部員が大会運営を補佐する補助員として入り、駐車場案内や入場券販売、観客席へのファウルボールの回収などにあたったが、アナウンスもその一環だ。

 試合前。まずは対戦する両校の選手たちの出身中学校の読み方を確認する。試合が始まると、もう中断はできない。試合の進行を注視しながら打者の名前を間違えないように読み上げる。球審のジャッジを見てスコアボードにボールカウントを表示するのもマネジャーたちの役割だ。安打や失策の表示も、大会本部の記録担当者の判断に従ってする。

 球審が大会本部に駆け寄ってきた。「選手交代くるよ!」と身構える。球審が手短に伝えてくる交代を聞き取り、間違いのないよう反芻(はんすう)してすぐさまアナウンス。球審が近付いてきた時は、予定外のことが起きる。この瞬間、放送室内は緊張感が一気に高まる。また、インプレー中はアナウンスできない。投手が初球を投げる前までに読めるところまで読み、臨機応変に切り上げる。

 公式戦でこの日初めてアナウンスしたという東農大二マネジャーの安原実紗希さん(2年)と中塩日菜さん(2年)。安原さんは「夏の大会は、どちらかのチームが必ず負けて3年生は最後の試合になる。名前を間違ることがないように緊張しながら読みました」。中塩さんは「はっきりした発音で、早口にならないよう、間を大切にした。知らない選手でも『頑張って』との思いを込めて読みました」と話した。

 つつがなく進んでいるように見える大会も、裏方の力があって成り立っていることを改めて実感した。

     ◇

 北関東では、栃木大会、茨城大会、埼玉大会などでも各校の野球部マネジャーが球場アナウンスで活躍している。阪神甲子園球場で開催される全国選手権大会と選抜大会では、普段プロ野球のアナウンスをしている「放送担当」と呼ばれる球場職員がアナウンスを担う。

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