この春、北海道に赴任し、高校野球の担当になった。甲子園の試合は見たことがなく、子どもの頃、BGM代わりにブラスバンドの演奏を聞いていたかすかな記憶だけがあった。
この夏、かつての自分のように高校野球にあまり興味がない人にも記事を読んでもらうにはと、浮かんだテーマが「食」だった。「球児にチャージ!」のタイトルで複数の学校を紹介した。
学生の頃、授業がオンライン化されたのを機に、遠軽町のじゃがいも農家や酪農家に住み込みで作業を教えてもらったことがあった。
普段、口にしているものの裏にある細やかな作業・判断・配慮の積み重ねを知れることが面白く、幸せでならなかった。産地ならではのぜいたくな食生活にも魅了された。
高校野球の取材対象はエースや主将に集中しがちだ。「食」をテーマに据え、主力選手以外の支える人たちも描きたかった。各校にアンケートを送り、北海道内の各地を取材で訪れた。
ある学校では、監督の親がとったホタテや、コーチの実家で育てた野菜が振る舞われていた。「あるものを持ち寄っているだけで、特別なことはしていないんですけど大丈夫ですか?」と言われたが、東京出身の自分からすれば「いやいや、待って待って。それがすごいんだって」と反論したくなった。
生産者の顔がわかり、地域の人が丹精込めて作った野菜や米、乳製品で体づくりをするので、選手たちには自然と感謝の気持ちが芽生えていた。食事風景から、日々の食を真剣に考えていることも伝わってきた。
北海道産の食材の良さに気付き、豊かな食と球児のプレーが結びつく。そんな動きが道内各校で広まっていってくれたらうれしい。(鈴木優香)