鉄の街・北九州市で官営八幡製鉄所から続いてきた高炉の火が、2030年をめどに消える。脱炭素に向けた大型電炉の導入を日本製鉄が決めたためだ。地元では、関連工程の仕事を失う協力会社がある一方で、6300億円もの巨額投資が新たな「ビジネスチャンス」になっている。
「電炉化で日本製鉄からの受注が減る、と会社から説明を受けました」
7月中旬の夕方、北九州市戸畑区。日本製鉄九州製鉄所の門を出て帰途に就いた50代男性が記者に明かした。
男性は高炉や転炉のメンテナンスに関わる協力会社の社員。ただ、「5年先のことなので、人を減らす話は出ていない。特に不安は感じていない」とも話した。
1901年から続く高炉の火 2030年の休止決定
日本製鉄は5月末、九州製鉄所八幡地区の戸畑エリアに高級鋼を製造できる大型電炉1基を新設し、29年度下期に生産を始めると発表した。それと引き換えに、八幡地区の高炉で唯一残る戸畑第4高炉は30年9月末をめどに休止する。
1901(明治34)年、鉄鉱石をもとに鋼材の生産まで行う国内初の本格的な銑鋼(せんこう)一貫製鉄所として、官営八幡製鉄所が操業を始めた。以来、一帯は「八幡」の鉄作りとともに発展してきた。
戸畑、八幡、小倉、豊前の各エリアから成る八幡地区では現在、日本製鉄社員約4千人、協力会社の従業員約9千人の計約1万3千人が働く。
電炉化により、高炉や焼結機、コークス炉、転炉といった「上工程」の設備が不要となる。その結果、日本製鉄社員約350人、協力会社約800人分の仕事がなくなる見込みだ。
日本製鉄の社員の雇用は配置転換などで維持される。一方、協力会社については、電炉化で新たに必要となる人員が未確定なこともあり、今後の協議に委ねられている。
構内作業の協力会社「元請け通して仕事、情報がない」
「まだ確定情報は何もない」…