くすり、いつ始める?

 みなさん、血圧をはかりましたか? 今回は高血圧の薬の飲み方がテーマです。大屋祐輔・琉球大学名誉教授に語ってもらいます。今年、治療のガイドラインが改定され、薬の選び方に少し変更があったといいます。

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 まずおさらいです。血圧がちょっと高めの人に気にして欲しい目標値は、収縮期(上)と拡張期(下)がそれぞれ「130/80ミリHg未満」です。一方で、高血圧と診断されて治療の対象になる目安は、多くの場合「140/90ミリHg以上」です。

 高血圧と診断されても、すぐに薬を飲み始めるかというと、必ずしもそうではありません。おおむね1カ月前後、様子をみながら、薬の治療を始めていきます。

 高血圧の薬には大きく分けて、血管を広げる薬、尿を出して血液の量を減らす薬、心臓の働きを少し抑える薬、の3通りがあります。血圧を上げる主な要因は、血管が硬くなって血流の抵抗があがることと、塩分のとりすぎなどで血液の量がふえること、の二つですから、薬で、それぞれの原因にアプローチします。

「血管を広げる薬」で効果が出ないときは?

 最も一般的なのは、血管を広げる薬です。カルシウム拮抗(きっこう)薬、ACE阻害薬、ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)があり、なかでもよく使われるのがカルシウム拮抗薬です。

 カルシウム拮抗薬は、血管に直接作用して血管を広げる薬です。飲み屋さんで「とりあえずビール」を頼むように、「とりあえずカルシウム拮抗薬」と表現できるほど、よく使われます。副作用もあまりありません。ARBやACEは、血管を収縮させるホルモンの働きを抑えることで血管を広げます。

 尿を出して塩分の排泄(はいせつ)を促す薬には、サイアザイド系利尿薬があります。また、心臓の働きを少し抑える薬に、β遮断薬があります。ただ、この二つは使い方にちょっとコツがいるため、あまり使われていませんでした。

 ところで、「甘いけれど少しパンチが足りないお汁粉」があったとしたら、みなさんは何を加えますか? もっと砂糖を足しますか? 私なら塩を足します。こしょうという人もいるかもしれませんね。

 薬もおなじで、ひとつのアプローチでどうも血圧が下がりきらないときは、別のアプローチの薬を足す、という使い方をしてほしい、と思っています。

 実はここが、今年新しくなる高血圧管理・治療ガイドライン2025で、これまでと少し変わった点です。

 従来は、「最初に選択する薬」として、血管を広げる薬と利尿薬をひとまとめに示していました。ところが、実際の診療では、利尿薬はほとんど使われていなかった。そこで今回は、最初に使う薬を、すでによく使われているAグループの薬(G1a)と、それが効きにくそう、または、実際に効かない場合に使うBグループの薬(G1b)というグループに分けた点がこれまでと少し違います。G1aは血管を広げる薬で、G1bが尿を出す薬と、心臓の働きを抑える薬です。利尿剤やβ遮断薬は、脱水になりやすいとか、血圧以外の数値が少し悪くなるといった副作用が心配されて避けられがちですが、上手に使えば、大変効果的なのです。

 新しいガイドラインでは、最初に使う薬(G1aとG1b)で効果が無かった場合に、選んでもよい薬(G2)についても示しました。心筋梗塞(こうそく)や脳卒中を減らす効果があるかどうか、までは研究で確かめられていないけれど、血圧を下げる効果はある、という薬たちです。新しいガイドラインでは薬の選択肢が増えています。

生活習慣の改善は気長に

 飲み薬は1日1回だけ飲むものが最近の主流です。ただ、朝に血圧が上がりやすかったり、夜勤の仕事をしていたりする人は、1日2回飲むほうが効果的ということもあります。患者さんひとりひとりの生活スタイルに合わせて決めていくので、主治医の先生とよく相談してくださいね。

 もちろん、血圧の治療では、薬を飲むだけでなく、食事や運動などの生活習慣の改善にも取り組みます。血圧を上手にコントロールできるようになって、生活習慣も改善されれば薬を減らすこともできます。ただ、生活習慣の改善には数カ月から年単位の時間がかかる、というのが私の肌感です。そんなにすぐには変わらないもんだ、くらいの気持ちで取り組みを続けてみてください。

 次回は、新しいガイドラインのポイントを紹介します。

血圧を下げる薬のポイント

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