学校

 大阪府吹田市の市立小学校で2018年度にいじめを受けて不登校が続いたとして当時6年生の男子児童と両親が、市と、同学年だった2人に計680万円の損害賠償を求めた裁判の控訴審判決が昨年12月にあった。学校の対応を違法とした一審判決の判断を維持した上、一審より10万円多い計60万円を男子児童と両親に支払うよう市に命じた。原告側は一連の判決について、教室に復帰できなかったことによる学習権の侵害を認めた点などを評価。一方、市は判決を不服として最高裁に上告受理申立をした。

 一連の判決によると、男子児童は同級生から仲間外れなどのいじめに遭い、18年10月から不登校状態になった。クラスでは受験勉強を理由に休んでいるなどと事実と異なるうわさを言う同級生も現れた。

 市教育委員会は翌11月、いじめ防止対策推進法の重大事態と判断。学校は同月、クラス全員に男子児童に関するアンケートをして、うわさを言った同級生3人の名前もわかった。

 男子児童はうわさをした同級生が誰か分からないことへの不安も登校の妨げとなっていたため、母親は同月、発言主について学校に質問したが、校長は答えなかった。

 昨年5月の一審・大阪地裁判決は、うわさをした同級生について把握した情報を母親に提供しなかったなどの学校の対応について、「裁量を乱用または逸脱したもの」として違法と判断した。男子児童は19年1月に登校を再開したが、うわさをした同級生がわからず不安が解けなかったため、教室には復帰できないまま卒業。違法な対応がなければ教室へ復帰できたとして、学習権侵害を認め、慰謝料として50万円を払うよう市に命じた。

 また、学校が男子児童側にアンケートの実施を事前に説明せず、内容への希望も聞かなかったことなどアンケートの実施方法についても、文部科学省のいじめの重大事態の調査に関するガイドラインに違反し、裁量を逸脱しており違法だとした。

 控訴審の大阪高裁判決(森崎英二裁判長)は、市による男子児童への損害の認定と慰謝料支払い命令を維持。さらに、うわさを言った同級生3人を特定できていないと説明したことなどについて両親への損害賠償責任も認め、市に対し両親それぞれに慰謝料として5万円を別途支払うよう命じた。

 原告側代理人で、いじめに関する訴訟に多く関わってきた石川賢治弁護士は「一審判決が学習権侵害に踏み込んで明示したことは大きな着目点。控訴審判決も一審判決の法的立論を維持した」と評価する。

 一審判決は、男子児童が登校を再開しても教室へ復帰できなかったため学習権が侵害されたと明示した。石川弁護士は「教室で学習を受けられなければ、学習権侵害にあたると示したことは大変重要だ」と評価する。

 また、一審判決はいじめ防止対策推進法と文科省のガイドラインを参照して学校側の対応を検討。石川弁護士は「対策推進法から求められていることをしていないから違法と明示したのも特徴だ」と話す。

 さらに一審判決は、同級生の名前など調査によってわかった事実関係は、要求がなくても学校が原告側に提供すべき情報に含まれると明示。うわさを言った同級生を別室学習とすることで男子児童が教室に復帰できたと推認した。男子児童の父親は取材に「いじめ被害で登校できなくなったり、教室に入れなくなったりしている子どもたちや保護者にとって、非常に心強い判決だ」と話している。

 一方、吹田市は「市の主張がまったく認められなかった二審判決については、到底納得できるものではない」とコメントしている。

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