米カリフォルニア州のロサンゼルス港で5月、荷揚げされたコンテナの近くで米国旗がはためいていた=ロイター

記者解説 アメリカ総局・榊原謙

 トランプ米大統領の関税政策が、戦後80年に及ぶ自由貿易体制を根本から揺るがしている。米国経済にも打撃となりかねない関税の引き上げに、なぜこだわるのか。背景には貿易の「不均衡」をめぐる長年の不満がある。

 トランプ政権の関税政策を担当する米通商代表部(USTR)のグリア代表は5月の会見で、「トランプ関税」の源流に触れるある核心的な発言をした。

 「我々はシステムの中で努力を尽くした。だが、その結果は1.2兆ドルの貿易赤字だった」

 グリア氏が言うシステムとは、戦後の自由貿易体制そのもののことだ。

 米国は多国間の話し合いで貿易障壁を減らす多角的貿易交渉をリードしてきた。保護貿易が第2次世界大戦につながったという反省があったためだ。西側陣営の貿易を盛んにして共産主義陣営に対抗する狙いや、自由貿易による国際分業が米産業の利益にかなうとの考えもあった。

 米国は積極的に自らの関税を引き下げ、市場開放を促してきた。他国にも波及し、全体の関税水準が徐々に下がった。米国の主導による関税引き下げこそが、自由貿易体制の根幹だった。

 だが、1994年の「ウルグアイ・ラウンド」を最後に、多角的貿易交渉は合意に至っていない。世界貿易機関(WTO)のもとで2001年に始まった「ドーハ・ラウンド」は、米国と途上国との対立などで交渉は失敗した。

ポイント

 トランプ関税の背景には、自由貿易体制で長年蓄積された米側の不満がある。トランプ政権の究極の目的は、中国との経済関係のリバランス(再均衡)だ。高関税は米経済にも打撃となり、金融市場の悪化などが見直しを迫る可能性がある。

 グリア氏は「全ての国が関税…

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