記者解説 くらし科学医療部・吉備彩日
安心して暮らすには医療保険や年金といった社会保障制度が欠かせない。3日に公示された参院選でも重要なテーマとなっている。高額な医療費をどこまで患者側に負担させるのか、「高額療養費制度」をめぐる議論も注目される。
患者のひと月あたりの医療費の自己負担額には、高額療養費制度で上限がある。医療費がかさんでも所得に応じた上限額が適用される仕組みだ。1973年に始まって以来、医療保険の「セーフティーネット」として機能してきた。
この上限額を引き上げようとする動きがある。
健康保険組合連合会などの保険者や日本医師会などの医療団体、有識者らが参加する社会保障審議会医療保険部会は昨年11月、議論を開始した。厚生労働省は「すべての世代の被保険者の保険料負担の軽減を図る」などとして、上限額の引き上げや所得区分の細分化を提案。物価や賃金の上昇を反映し、負担能力に応じた応能負担を強化するとした。
部会は厚労省の方針を了承。与党の自民党と公明党が厚労省の案を修正してできた当初案では、2025~27年にかけて3段階で上限額を引き上げることになっていた。
石破政権は引き上げを前提に、25年度当初予算案を12月27日に閣議決定した。だが患者団体などからの不安の声が高まり、国会では野党も追及。政府は2月14日、長期間の治療が必要な人について負担増を見送ることを表明した。さらに同月28日には、第1段階にあたる8月の引き上げは実施しつつ、26年と27年は凍結することに。少数与党の石破政権は、25年度の予算案を通すために、2度も修正案を示すことになった。
それでも患者らの不安は解消せず、反発は強まった。石破茂首相は3月7日に患者団体の代表者らに面会し、事実上の「全面凍結」に追い込まれた。3度目の方針転換で、閣議決定された制度改正が見送られるのは異例だ。
ポイント
高額療養費制度の負担上限額引き上げは、患者らの反発によっていったん凍結された。少子化対策の財源を社会保障費の削減などでまかなう政策が、引き上げの背景にある。患者への影響をはっきりさせ、負担や医療サービスの範囲について議論すべきだ。
「患者の皆様に不安を与えた…