高額の医療費がかかった患者の自己負担に月ごとの限度を設けた「高額療養費制度」の見直しをめぐり、国民民主党の玉木雄一郎代表の発言が波紋を呼んでいる。現行制度では外国人でも3カ月程度の滞在で数千万円相当の高額療養費を受けることができると主張し、不適切利用を防ぐためにも制度を見直すべきだと訴えているが、専門家からは「特別な事例をもとにした論理の飛躍」との指摘も出ている。
「3カ月日本にいれば外国人でも制度を使える。数万円払ったら1億6千万円の治療が受けられるのは、日本の納税者や社会保険料を払っている人の感覚からすると『どうなんだ?』というところも踏み込んだ見直しが必要」。高額療養費制度をめぐり、玉木氏は2月15日、読売テレビの番組でこう訴えた。同日、自身のX(旧ツイッター)にも「外国人やその扶養家族が、わずか90日の滞在で数千万円相当の高額療養費制度を受けられる(中略)現役世代が苦労して支払う社会保険料は、原則、日本人の病気や怪我(けが)のために使われるべきです」と主張。翌16日には、自身のYouTubeで「排外主義的と言われているが、そんな気持ちは全くない」と強調したうえで「高額な治療を安く受けることを目的に(日本に)来るようなケースをもっと厳格に見た方がいい」とも主張した。外国人の制度利用をめぐる玉木氏の発言はSNSで拡散し、賛否両論がわき起こった。
政府は、国籍を問わず、国内に住所がある人に対し国民健康保険(国保)への加入を義務づけている。ただし、外国人であっても就労や留学などで在留期間が「3カ月を超える」中長期在留者や特別永住者が対象であり、保険料を支払うことで高額療養費制度を利用できる。同制度は、毎月の医療費が膨らんだ際の負担軽減策として、所得に応じた限度額を超えた分が払い戻される仕組みだ。
ただ、実際には外国人による制度利用が全体に占める割合は限定的だ。厚生労働省によると、2022年3月~23年2月の高額療養費制度の支給総額(9606億円)のうち、受給資格をもつ中長期在留者ら外国人への支給額の割合は1.15%(111億円)で、国保に加入している外国人の割合の3.6%よりもさらに低い。
外国人による不適正利用に関しては、国保加入後1年以内の外国人を対象に、不適正な利用が疑われる事案を自治体が入国管理局(現・出入国在留管理庁)に通知する制度を18年に厚労省が開始し、医療目的の在留が特に疑われるケースも含めて調査している。同省によると、18年1月~23年5月に計34件の通知があり、調査の結果、在留資格の取り消しや給付費の返還を求めた事例はなかった。
識者「特別な事例 論理の飛躍」
保険制度に詳しい一橋大の高久玲音教授(医療経済学)は「医療費全体から見れば、外国人が占める割合は極めて小さい。外国人向けの給付を削減すれば現役世代の負担の軽減ができるということは全くない」と指摘。「医療には、社会保険料だけでなく多額の税金も投入され、外国人も消費税を含め税負担はしている。このため、特別な事例をもとに、『日本人が払った保険料だから保険医療は日本人だけに』と考えるのは論理の飛躍だ」と語った。
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