村上祐哉さん。現在開発中のカキ殻からゴミをとる機械の横で=2025年2月21日午後2時8分、岩手県陸前高田市、松尾葉奈撮影

 「陸前高田のスティーブ・ジョブズ」と呼ばれる若者がいる。機械の設計開発や修繕を請け負う、岩手県陸前高田市の村上祐哉さん(33)だ。稚貝を育てる箱に砂を詰める機械、ワカメに塩をふるなどして「塩蔵ワカメ」にする機械――。次々と開発される新商品が、高齢化する地元漁業者から評判を呼んでいる。

 村上さんは、同市沖に広がる広田湾の沿岸で生まれ育った。祖父と父はホタテやワカメの養殖に携わる。高齢化で事業環境は厳しく、デザインの道を志して仙台市のデザイン専門学校に進学。震災後にUターンし、家具などの設計販売会社を2016年に設立した。

 帰郷後のある日。テレビ番組で、イシカゲ貝の養殖を特集していた。「幻の貝」とも呼ばれ、すし店や料亭で使われる高級食材。全国で唯一、広田湾で大規模に養殖している特産品だ。

 養殖では、稚貝を育てる箱に砂を敷き詰める作業がある。1箱約10キロ分の砂を、従来はスコップで何十箱も詰める重労働だ。村上さんも、家族のイシカゲ貝養殖を手伝ってきたから、苦労がわかっていた。その工程を自動化する機械を、広田湾漁協が導入したという話題だった。

 番組を目にして「自分も開発したら、仕事になるかも」と思い、機械を使っている漁業者を訪ねた。すると、番組で取り上げられた機械は作業場の隅に置かれ、使われていなかった。この機械では1箱ずつしか砂を詰められないため時間も手間もかかり、「手作業の方が早い」のだという。

0を1にしたい

 「養殖に詳しい自分なら、もっといい機械がつくれる」。親族から約400万円を借り、試作品を製作。ボタン一つで、3箱同時に定量の砂が自動で詰められるものだった。

 漁業者の前で実演会を実施すると「リモコンがほしい」や「複数のスイッチがあればいい」などの意見が出た。改良しては実演を重ね、約3年で全自動化が可能な機械を完成させた。これまで広田湾漁協の漁業者らが7台購入したという。

 砂詰め機の開発を進めながら漁業者と話すうち、新たに「自動化できる作業」が見えてきた。

 塩蔵ワカメをつくるため、ワカメに塩を均一に振りかける作業。イシカゲ貝の養殖で使うナイロンシートに付着したゴミを取り除く洗浄……。昔から手作業が当たり前とされていた工程だが、自動化する機械を村上さんが開発。「すごく楽になった」。導入した漁業者からの反応は上々だ。

 現在は国や市の助成を受け、養殖カキの殻につくフジツボなどのゴミを取り除く機械を開発中だ。佐々木拓市長は「彼は陸前高田のスティーブ・ジョブズ。完成が楽しみ」と期待を寄せる。

 機械を開発するのは、「自分が楽したいから」と村上さんは言う。父から家業を継ぐときには、養殖を全工程で自動化する夢を見る。

 陸前高田のスティーブ・ジョブズと呼ばれることを、村上さん自身はどう思っているのか。「自分の仕事は0を1にすること。誰もやっていないことをやるというのは同じかもね」と笑う。

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